作者のことば 石橋真樹子さん『くるまのなかには?』
郵便車、宅配車、引っ越しトラック、路線バス……。街で見かける働く車たちは、どんなものを、どのくらいのせて走っているのでしょうか? 街中の車をながめて想像を膨らませる喜びが生まれる絵本『くるまのなかには?』。
2019年に月刊絵本として刊行され人気だった作品です。待望のハードカバー化を記念して、月刊絵本刊行時の折り込みふろくに掲載された「作者のことば」をお届けします。
しごとの なかみは……?
石橋真樹子
「タンタンチ!」。これは息子が幼い頃、大好きな宅急便の車を見ると叫んだ言葉です。他にも息子の“特別な車”がありました。郵便車、引越トラック、バス、ゴミ収集車、コンクリートミキサー車等々。車体のカラフルさに加え、中身を想像するのが楽しかったのでしょう。これらの車が停車していると、その仕事っぷりを少し離れた所から食い入るように眺めていました。なぜ少し離れた所なのかというと、仕事中の職員の方々から発せられる、真剣な雰囲気に圧倒されたからです。幼児ながらに邪魔してはいけないと感じたのでしょう。
今回の絵本作りは、あの頃の“特別な車”との再会でした。それぞれの取材先で、じっくり車の中身を拝見し、小学生になった息子に羨ましがられました。とはいえ、貴重な仕事の時間を頂くのですから身の引き締まる思いでした。取材先の四つの会社では、プロ意識の高さや、楽しく仕事をしようという良い空気を感じることができました。
日本郵便の郵便局では、お客さんの入らない所にも季節の楽しい装飾がされていました。外にはツバメの巣が保たれ、子ツバメの顔を見るとこちらまで笑顔になりました。
ヤマト運輸の支店では、外にイチゴの鉢が並び、収穫を楽しみにされていました。また、ドライバーの方の荷物を届ける姿に無駄がなく、その集中力と体力に驚きました。
サカイ引越センターの支社では、引越の様子を再現して頂きました。段ボールを手早く組み合わせ長いものを収納したり、重い家具を工夫して運んだりするのは手品のようでした。
江ノ電バスの営業所では、運転手の方から狭い道を走る難しさや、様々な乗客への対応を常に考えておられるというお話を伺い、身近なバスにも工夫が詰まっていることを知りました。
「くるま」だけではなく「しごと」の中身も拝見し、仕事というのは、そこに集う一人一人が楽しい気持ちを持つことがいかに大切かと改めて感じました。そして、それは全ての人の日常生活にも通じることなのかもしれません。
石橋真樹子(いしばしまきこ)
1970年、東京都に生まれる。女子美術大学デザイン科卒業。絵本に『カマキリのかんちゃん』(「こどものとも」)『はいしゃへいくひ』(「こどものとも年中向き」)『フェリーターミナルの いちにち』『うみべの ごちそう』『クモを みつけよう』(いずれも「かがくのとも」)『でんしゃが きた!』『のぼれ! ケーブルカー』(「ちいさなかがくのとも」/以上、福音館書店)などがある。
2023.11.24