作者のことば

『せがのびる』に寄せて 山田真さん

「かがくのとも」2020年3月号として刊行された『せがのびる』。子どもたちの「背」にまつわる疑問や思いを取り上げつつ、背が伸びる仕組みや、ありのままの自分を大切にする気持ちを学べる1冊です。ハードカバー化を記念して、本の制作にあたってご協力いただいた、小児科医の山田真さんのエッセイを再掲いたします。

ありのままで生きていっていい

山田真(八王子中央診療所理事長)


この絵本は、「どうやって・どうして背が伸びるのか?」という子どもの疑問に、柳生さんがユーモアたっぷりにこたえた作品ですね。

ぼくはもう50年も小児科の医者をしているので、本当に多くの子どもたちに会ってきました。その中には、身長について疑問を持つというより、悩んでいる子もたくさんいました。悩みのほとんどは「身長が低い」「身長が伸びない」といったものでしたが、世の中にはどんどん伸びてくることで悩んでいる子もいるのです。

最近会ったSさんというお姉さんは、「中学生の時にもう身長が170センチ以上あって、とてもいやだった。どうしたら伸びなくなるのかを真剣に考えていた」と言っていました。

女の子の場合、背が高いとからかわれたりすることがあるようで、Sさんは「うどの大木」と呼ばれたことが何度もあったそうです。(「うどの大木」は「大きいばかりで役に立たない」という意味)。

身長で悩む子どもは、しばしば努力をします。 「牛乳を飲むと身長が伸びる」とか、「睡眠時間を長くすると身長が伸びる」という話をどこかで聞いて、牛乳をたくさん飲んだり、長時間眠ったりして頑張る子どももいます。 でも、効果がないことが多いのです。身長の高いSさんの場合は「牛乳をやめて、眠る時間も4時間くらいにしてみたけれど、背が伸びるのを止められなかった。牛乳も眠る時間も、身長と関係がないと思う」ということでした。

身長はやはり遺伝が強くはたらいていると考えて良いようです。ぼくたちの体型や性格、運動能力などは遺伝と生まれてからの環境などで決まりますが、遺伝の割合が強いものと弱いものとがあって、身長は遺伝が占める割合が80%といわれています。でも20%は遺伝以外の条件があるということで、ぼくも相談されることがあります。しかし、一部の”成長ホルモンが不足している人” “甲状腺のはたらきが低下している人”などが治療で背を伸ばせるものの、多くの人については背を伸ばしたり低くしたりする確実な方法はないのです。

人間はひとりひとり違っています。違っているのがいいのであって、みんなが同じ身長、同じ体格、同じ顔つきだったら気持ちが悪いでしょう。背の小さい人には、小さい人でなければできないことがあることを知ってください。競馬の騎手のように、小柄であることが有利になる仕事もあります。また大きい人には大きい人でなければできないことがあります。身長を伸ばしたり、止めたりすることを考えないで、ありのままで生きていっていいのです。

(「かがくのとも」2020年3月号 折り込みふろくより)

2024.02.26

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