『デタラメ研究所』の小波秀雄さん|デタラメなこの世界
「たくさんのふしぎ」2018年8月号として刊行された『デタラメ研究所』。難しくとらえられがちな〈確率〉について、コマツシンヤさんによる漫画と一緒に楽しく知ることができる1冊です。ハードカバー化を記念して、文章を手掛けた小波秀雄さんの「作者のことば」を再掲します。〈確率〉は、〈算数〉の世界だけではなく、私たちの生活にも深くかかわっているんですね。
デタラメなこの世界
「デタラメ」が自然の中で重要な働きをしていることを知ったのは高校の時でした。気体の圧力は、容器の中をデタラメに飛び回っている分子の衝突のせいだというのです。そこで計算してみたら、気体の法則が導かれることに感動しました。大学では、デタラメに形を変えるゴムやプラスチックの巨大分子が最初の研究対象になりました。その後、分子の中の電子の世界に目が移りました。実は電子もデタラメに動き回っていて、ぼんやりした「電子雲」になっているのです。「デタラメ」は科学の世界の大スターなんですね。
この本では、私たちが暮らしの中で出会う「デタラメ」に目を向けました。いい加減とかウソつきという意味ではなく、サイコロの目のように予想できない未来のできごとについて考えてみたかったのです。そこから確率というアイディアが導かれるのですが、人は「デタラメ」との付き合いがとてもヘタで、確率についてもいろいろとたくさんの思い込みをしているものです。人間の心理のおもしろいところでもあります。
私たちは、偶然のできごとによって毎日が左右されています。たまたまいいことも悪いこともあるし、「人生は運だよね」という人もいます。でも、しっかり勉強すればテストでよい点が取れる確率は高くなるし、歩き回ってたくさんの人と出あえば、すてきなものをもらえるチャンスもまちがいなく多くなります。反対に確率が低いものに期待しても、得られるものは少ないし、ごくわずかな確率で起きる危険を恐れていたら、損ばかりの人生を送ってしまいます。確率を知ることは、努力や決断のしかたを教えてくれるんですね。
そうそう、乱数がえがく星座のように、デタラメはおもしろい模様を作り出します。どの模様も気が遠くなるような無数のパラレルワールドからやってきて、どれひとつとして同じものはありません。私たちも「デタラメの世界」からひょっこり差し出されるプレゼントを楽しみに、わくわくしながら生きていたいものです。
小波秀雄(こなみ・ひでお)
1951年、宮崎県の霧島山麓に生まれ、校庭の真ん中にエノキの巨木がある麓小学校という学校で子ども時代を過ごす。昆虫採集、川遊び、山歩きで遊びまくり、中学から高校にかけては化学実験に夢中になり、大学では理学部で化学を学び、研究者の道へ。デタラメな分子である高分子、電子が作る確率の雲と遊んでいたが、2000年から京都に移って統計学の世界に入り込む。著書に『基礎から学べる確率と統計』(プレアデス出版)、『きわめる情報リテラシー―基本から応用まで』(晃洋書房)、『楽しいプログラミング[増補改訂新版]』(インプレスR&D)など。
2023.06.21