作者のことば あずみ虫さん『じゅう じゅう じゅう』
アルミ板をはさみで切って、そこに着色する独特の手法で絵を制作されているあずみ虫さん。微妙なカッティングと色のセンスは抜群です。本作では、おいしそうに見える焦げ目をつけるのに試行錯誤をされました。ちょっとでも焦げ目が強くなると、おいしくなさそうに見えてしまいますからね!
月刊誌刊行時に、人気だったこの作品。待望のハードカバー化を記念して、当時の折り込みふろくに掲載された「作者のことば」をお届けします。
ダチョウの卵焼き
あずみ虫
子どものころ、母と一緒にアフリカのテレビ番組を観ていると、現地の人が「ダチョウの卵焼き」を作っていて、母と一緒に「ダチョウの卵焼き、食べたいね! 作ってみよう」ということになりました。しかし当然、ダチョウの卵は家には無いので、鶏の卵3個ほどをボウルでといて、フライパンに流し入れ、平たくまあるい「ダチョウの卵焼き」を作りました。
味付けは塩のみのシンプルなもの。いつも食べている卵焼きとほとんど同じはずなのに、ものすごく美味しかったです。その後、わが家の食卓には時々この「ダチョウの卵焼き」が登場していました。フライパンの上でじゅうじゅう焼かれていく卵を、ワクワクしながら眺めていたことを思い出します。
この絵本の制作で一番悩んだのは、にんじんのシーンでした。最初、焼いたにんじんが美味しそうに見えるのか不安で、編集者さんと相談して、他の食材のそら豆、さやえんどう、アスパラガスなども考えたのですが、「やっぱり一番なじみのあるにんじんがいいね」となりました。その次は、にんじんの切り方でまた悩み、輪切りやイチョウ切りなどいろいろ試しながら描き、最終的にころんとした形のにんじんになりました。
それから一番うれしかったのは、フライパンで焼く食べものに焦げ目を描いた時です。絵の具で少しずつ焦げ目を描き入れると、絵の中の卵やソーセージがだんだんと焼かれた美味しそうな姿になっていき、まるで本当に料理をしているような感じがしました。同時に、子どものころワクワクしながらフライパンの上で出来上がっていく料理を眺めていた時の気持ちになって、「美味しくな~れ、美味しくな~れ」と、つぶやきながら描いていました。
あずみ虫
1975年神奈川県に生まれる。安西水丸氏に師事。アルミ板をカッティングする技法で作品を制作。絵本、書籍、雑誌、広告などの分野で活動中。小説雑誌の挿絵で講談社出版文化賞さしえ賞、『わたしのこねこ』で産経児童出版文化賞美術賞受賞。その他の絵本に『ぴたっ!』『いもむしってね…』『くるりん ぱくっ』(「こどものとも0.1.2.」2021年9月号/以上、福音館書店)『おねぼうさんは だあれ?』(学研プラス)、アニメーションに「えほん寄席」(NHKエデュケーショナル)などがある。現在はアラスカと日本を行き来しながら、作品を制作している。
2022.01.17