5月3日 赤羽末吉さん|昔話絵本の達人
月に1回、その月にお誕生日を迎える作家・画家とその作品をご紹介する「絵本作家の誕生日」。5月3日は、昔話絵本の達人、赤羽末吉さん(1910年-1990年)のお誕生日です。
昔話絵本の達人
赤羽末吉さん(1910年5月3日生まれ)
『スーホの白い馬』『かさじぞう』『だいくとおにろく』『くわずにょうぼう』など、赤羽末吉さんが描いた昔話絵本は、世代をこえ、たくさんの子どもたちに愛されつづけてきました。その絵本にふれた人は誰でも、絵がお話と一体のものとなって深く心に刻まれているのではないでしょうか。
赤羽末吉さんは、東京神田の生まれですが、22歳で旧満州(現在の中国東北地方)に渡りました。運送業や当地の電信電話会社で働く中で絵を描くようになり、中国大陸の広大な風景やそこに暮らす人々の様子をたくさんのスケッチや写真に残しました。それらは終戦後の苛烈な引き揚げの旅の中でも肌身離さず持っていたそうです。
日本に戻ったのち、アメリカ大使館で働きながら絵の仕事をしていましたが、茂田井武の描いた『セロひきのゴーシュ』(「こどものとも」1956年5月号)を目にして深く感動し、当時の「こどものとも」編集長 松居直をたずねました。そして、かねてより雪国の風土に興味を持って取材していたことから『かさじぞう』(「こどものとも」1961年1月号)を描くことになったのです。こうして初めての絵本が生まれたのは赤羽さんが50歳の時でした。
『かさじぞう』では、白の地色に描かれた墨のにじみが雪の白さを際立たせ、雪国の風土を深く印象づけています。
それから日本やモンゴル、中国の昔話などを、墨絵や大和絵などさまざまな日本画の技法を駆使して、たくさん絵本にしています。そこでは、その昔話を生み出した風土に深い愛情をもって描きながら、物語の世界にもっとも適した画材や紙を選びぬき、構図や技法も考えぬいて、絵本の世界を作りあげていきました。
『スーホの白い馬』では、モンゴルの黄色い平原の広大さを、そこにくりひろげられる馬と少年のドラマチックな物語とともに、横長の大きな画面の中に見事に表現しています。その絵は技法という枠を越えて、見る者の心にまっすぐ昔話の世界を届けてくれるようです。
『ももたろう』と『だいくとおにろく』は、鬼といえば赤羽さんといわれる所以となった代表作ですが、50年以上のロングセラー絵本として今も多くの読者をひきつけています。ほかにも『くわずにょうぼう』など、昔話の迫力ある展開を、大胆な場面構成と登場人物の造形で見事に表現しています。
赤羽さんは日本の風土に根ざす文化の独自性を大切にしながらも、せまい殻に閉じこもることを嫌い、国境をこえた文化として昔話や絵本の世界をとらえようとしていたようです。若い頃に中国大陸の壮大なスケールを知り、戦後のアメリカ大使館では、月世界や宇宙船の模型の展示プランを作成していた赤羽さんには、ユーモアを愛し、柔軟な思考を大切にする、コスモポリタン的な視点があったようにも思えます。
1980年、「国際アンデルセン賞画家賞」の受賞式でのスピーチで、赤羽さんはこう語りました。「私は今年70歳になります。今ようやく調子がでてきました。この調子でゆくと、80歳から90歳にかけていい仕事ができるのではないかと思います。世界のみなさん、どうぞ長生きして私の仕事をみててください。」
赤羽末吉さんの生涯については、『絵本作家のアトリエ 1』もご参照ください。作品一覧はこちらです。
2019.05.03