2月8日 長谷川摂子さん|「ことばの体感」を子どもたちとともに
月に1回、その月にお誕生日を迎える作家・画家とその作品をご紹介する「絵本作家の誕生日」。2月8日は、子どもたちとともにことばの楽しみを追究した長谷川摂子さん(1944年-2011年)のお誕生日です。
「ことばの体感」を子どもたちとともに
長谷川摂子さん(1944年2月8日生まれ)
「ちんぷく まんぷく あっぺらこの きんぴらこ じょんがら ぴこたこ めっきらもっきら どおんどん」
めちゃくちゃの歌を大声でうたったかんたは、 木の穴にすいこまれへんてこりんな3人組に出会います。『めっきらもっきら どおんどん』の歌がはじまると、静かにお話を聞いていた子どもたちも、うずうずと動きだし、調子に合わせて身体を動かさずにはいられません。
そんな魔法のような絵本の生みの親、長谷川摂子さんは大学院でフランス哲学を学びました。しかし、論文を書き上げた後、「生身の人間の中でもまれてみよう」と保育士になります。
全く経験がないまま4才児24人の担任になり、保育にとまどうなかで絵本を読み始めたといいます。「絵本は、私と子どもたちをとにかくつないでくれる架け橋になったのです」と当時のことを語っています。そして、子どもたちと一緒にひたすら様々な絵本を読み、喜びを共有しました。4人の子の母親として、また6年間の保育士生活の後に主催した「赤門こども文庫」「おはなしくらぶ」での読み聞かせやストーリーテリングの活動など、常に子どもたちと絵本を読み続けました。
作家としての出発は、1980年に月刊「子どもの館」で発表した短編「人形の旅立ち」(『人形の旅立ち』所収・現在品切)でした。この頃、長谷川さんは保育士をやめた直後で、子育ての合間に、自分の楽しみ のために書いたという物語には、故郷の山陰の町を舞台に、濃密な子ども時代を描き出されています。
その後、蛇口から飛び散る水と、恍惚として戯れる保育園の子どもたちの姿を描いた写真絵本『みず』(「かがくのとも」1982年6月号)をはじめとした科学絵本、「ぜんぜん意味のわからない、へんてこりんでおかしな歌を作って、2歳の息子と遊びたかった」との思いから創作した『めっきらもっきら どおんどん』(「こどものとも」1985年8月号)などの物語絵本、また『きつねにょうぼう』『はちかづきひめ』など昔話を再話した作品など、幅広いジャンルの絵本を生み出しました。
なかでも、『きょだいな きょだいな』『たあんきぽおんきたんころりん』や『おでかけばいばい』の絵本シリーズなど、ことばの響きが楽しい絵本は、長谷川さんの真骨頂といえます。
出雲で過ごした子ども時代を記したエッセイ『家郷のガラス絵』(未來社)には、まりつき歌に始まり、行商の呼び声、寺社のお祭りのお囃子など、土地の思い出を音とともに鮮明に書き綴っています。幼い頃から、長谷川さんの身体に鳴り響いていた音やことばが、絵本の豊かな表現の源となったのでしょう。
長谷川さんの絵本案内『絵本が目をさますとき』のなかで、歌や詩の絵本をどう読んだらいいかという問いに答えています。歌は、赤ちゃんにとって「いちばんよく通じる言葉」。それは、「通じると言っても意味が通じるんじゃなく、身体に響いてよく入るっていうこと」。「どんな民族でもわらべうたや、あやし言葉の伝統をもってきた。それは赤ちゃんにあげる言葉のおやつみたいなものだったと思う」。そして、絵本に出てくる歌も、親が適当につけた節やリズムで楽しんで読めばよく、「親のおおらかさが子どもを安心させる」といいます。
「たくさんの家庭で、お父さん、お母さんそれぞれのキャラクターを生かした、さまざまな『めっきらもっきら』の歌があると思うとなんだか愉快になります」と長谷川さんは語っています。
長谷川さんの絵本を手にとったら、ぜひお子さんと一緒に声を発してみてください。きっと、長谷川さんが大切にされた「ことば」の世界にすいこまれてしまうことでしょう。
長谷川摂子さんの作品は、こちらからご覧いただけます。
2019.02.08