お母さんには「ひみつ、ひみつ」のプレゼント 『ぼくのママはうんてんし』
お母さんには「ひみつ、ひみつ」のプレゼント
『ぼくのママはうんてんし』
リビングの戸棚の高いところにある引き出し。そこからはさみをそっと取り出して……。毎年「母の日」という言葉を聞くと、こんな一場面の記憶がよみがえります。私は幼稚園で作り方を習ったばかりの折り紙のカーネーションを妹たちとたくさん作ろうと、まだひとりで使うことを許されていなかったはさみをこっそり持ち出したのでした。
「母の日」が近づくと、子どもたちはなんだかそわそわ。『ぼくのママはうんてんし』の主人公のぞむくんとパパと妹のあゆみちゃんも、電車の運転士として働くママにとっておきのプレゼントの準備をはじめたようです。もちろん、ママには「ひみつ、ひみつ」です。
絵本の中の設定は「母の日」ではなくお母さんの誕生日なのですが、この絵本を読むと、はさみをこっそり持ち出した遠い「母の日」前夜の高揚感がよみがえってきます。のぞむくんと同じように、共働きの家庭に育ったことも、この高揚感を後押ししているかもしれません。ときに寂しい気持ちが満タンになることもありましたが「働いている母」は、のぞむくんと同じぐらい自慢だったのです。
当時とくらべ、共働きのご家庭が増えました。『ぼくのママはうんてんし』でも、看護師のパパと運転士のママは、保育園への送り迎えや家事を上手に分担しながら暮らしています。パパとママがそれぞれの職場で一生懸命に働く様子と、保育園で過ごすのぞむくんとあゆみちゃんの様子が時間軸にそって表現されているのもこの絵本の魅力です。
さてさて、のぞむくんたちのお母さんへのプレゼントは何だったのでしょうか? ヒントは「ハートの旗」と「こせんきょう」。電車の運転手のママにぴったりの素敵なプレゼントです。 プレゼント大作戦に思わぬアクシデントが起こってからののぞむくんと、保育園の友だちの奮闘にもハラハラ、ドキドキさせられます。
日曜日は「母の日」。引き出しのはさみがこっそり姿を消していたり、子どもたちがやけに静かにしていたりと、いつもとはひと味ちがう週末が訪れるかもしれません。でもどうか少しの間、知らんぷりをしてあげてください。部屋に散乱する折り紙の切り屑を見てしまっても……。
そして、素敵なサプライズに驚いたあとは、子どもたちが幼稚園や保育園にいる間、ご自身が毎日どんな風に働いたり家事をしているのかを、子どもたちに話してみるのはいかがでしょうか。外での仕事もおうちでの仕事も、それはきっと、子どもたちにとって誇らしく嬉しい時間になるのではないかと思うのです。
「日々の絵本」金曜担当・T
チームふくふく本棚の姉さん。趣味は、居酒屋のおつまみを自宅で再現すること。
2018.05.11