岩谷圭介さん講演会リポート

講演会「“やってみる”から始めよう! ~チャレンジ! 夢の宇宙写真!~」(2)

「やってみる」ことの大切さ

初めての撮影は大失敗

風船で宇宙を撮りたいと思った時、まだやっている人はいなかったので、やり方が全然わかりませんでした。まずは紙と鉛筆でいろいろ考えてみたんですが、考えてみてもやっぱり分からないものは分かりません。そこで私がとった方法が、「とりあえずやってみる」ということでした。装置を作ってみると、考えていただけでは分からなかったことが少しずつ分かってきたので、じゃあ空に飛ばしていろいろ確認してみようと思いました。たくさんのカラフルな風船を使って、カメラをつけた装置を空に上げたんです。ただ、どこに飛んでいくか分からないですし、飛んでいったものを回収する方法も分からなかったので、凧揚げみたいにやりました。紐をつけて、風船が飛んでいかないようにしていたんです。

この実験、ふんわり浮かんでかわいらしくて、大成功のように見えるかもしれませんが、結果は大失敗でした。風が吹くと風船同士がぶつかり合うせいでカメラがずいぶん揺れて、写真や映像がぐにゃんぐにゃんになってしまったんです。

ただ、大失敗ではあったんですが、とても大切なことが分かりました。それは「やってみれば、分からないことも分かってくる」ということでした。まだまだ分からないことがたくさんあったけれど、いろいろやっていけば、ちょっとずつ見えてくるんじゃないかなって思えたんです。そして研究を重ねるうちに、紐をつけずに空に放たないと、風船は宇宙を撮れる高い所までは行けないということが分かったので、紐をつけないで空に飛ばしても、きちんと回収できるものを作りました。ここまでに1年くらいかかりました。

再挑戦するも、今度は装置が行方不明に

そこで、山を越えた先の農地に落として、そこで回収するという計画をたてました。当時は北海道で飛ばしていたので、誰もいない広い場所に落とせば、誰にも迷惑をかけずに回収できるだろうって思ったんです。さて、飛ばしてみると、途中で全然逆の方向に飛んでいっちゃいました。これはもうお手上げですね。そして、落ちた先は海。装置は海の藻屑となりました。1年間ずっと頑張ってきたのに、何も残らなかったんです。大失敗です。この実験の難しさを思い知らされました。

私がこの実験をやっていた頃、「時間の無駄になるだけだよ」「誰もやっていないってことは、できないってことだよ」と言う人もいました。私はどうしても宇宙が撮りたいと思っていたので、話も聞かずに一生懸命やっていたんですが、その人たちの言った通りの結果になってしまったんですね。とても落ち込みました。落ち込んでる時って、悪いことばっかり考えるんですよね。自分には能力がないからできないんだと思って、あきらめる方向で気持ちを整理し始めたんです。

奇跡的に装置が帰ってきた!

ところが、ちょっとずつ落ち着き始めたころに、突然装置が帰ってきました。岸に流れついていたものを偶然見つけた方が、私のもとに送り返してくれたんです。帰ってきた装置は、10日間くらい海の中をさまよっていたので、砂だらけのさびだらけでした。もう機械は完全に壊れてしまっていたので、映像なんてとても見られないだろうと思ったんですが、なんと映像が残っていたんですね。ちょっとずつ街から離れて空に近づいていって、飛行機が飛ぶような高さまで上がることができていたんです。
この映像を見て、私はいろいろと考えることがありました。海に落ちたものが海岸まで戻ってくるって、すごく幸運なことだと思います。その海岸には偶然、人が歩いていました。しかもその人が親切な方でした。そして海に10日間も浸ってたのに、データカードが壊れてなかった。こんな偶然が何個も重なるってすごい確率です。ほとんど起こらないようなことです。自分には無理だとあきらめていたんですが、もうちょっと頑張ってみようかなと思いました。

地球の常識は宇宙の非常識

宇宙に行くと風船はどうなる?

それからまた実験と研究を重ねていくうちに、とても大切なことが分かりました。それは、「地球の常識は、宇宙の非常識」ということです。例えば、風船って手を離せば空に飛んでいくものだって思いますよね。でもこれ、宇宙だと変わってくるんです。例えば、月の上で風船を手から離すと、どうなってしまうでしょう。実は、月には空気がないので、風船は浮力を受けられなくて、重力に引かれて地面に落ちてしまうんです。ちなみに宇宙空間で風船から手を放すと、風船はただその場所を漂うだけなんです。このように、風船は宇宙に近づくとどうなるか分かりません。

宇宙ステーションにも重力がある?!

そして、みなさん宇宙は無重力だと思っていますよね。ニュースなどで目にする国際宇宙ステーション(以下、ISS)からの映像だとそのように見えますが、実はISSがある高さだと、地上と同じくらい重力が働いているんです。何を言ってるんだと思うかもしれません。これを説明するために、バケツを使って考えてみましょう。バケツの中に水を入れて振り回しても、中身がこぼれないって知ってますか? やったことはありますか? これは遠心力のおかげです。振り回すことで遠心力がかかるので、重力と釣り合って落ちてきません。ISSは、地球の周りを回っているので、このバケツのようなことが起こるんです。バケツを振り回したことがある人は分かると思うんですが、速度をゆっくりにすると中身がこぼれちゃいますよね。これと同じようにISSも回る速度が遅くなると地球に落っこちてしまうので、落ちないようにエンジン炊いて速度出して頑張ったりしてるんです。ちなみにこのISSがあるところ、地上の88%くらいの重力があるんです。ちょっと納得いかないかもしれません。


皆さんに納得してもらえるように、レゴブロックで地球儀を作ってみました。このレゴの地球儀は40段くらいで作られています。ISSが回っている場所は、どのあたりだと思いますか? 実は、ブロック1段分の高さなんです! ISSが回ってるのは、地球にこんなに近いわけですから、重力が88%あるということに納得してもらえるんじゃないかなって思います。私の風船は30~40kmくらいの高さまで上がります。ずっと地球に近いので、空に飛ばしても重力に引かれて無事に落ちてくるということが分かったかと思います。


 

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いわや けいすけ
1986年、福島県生まれ。北海道大学工学部在学中より風船を使った宇宙開発に取り組み、卒業後会社を設立し研究開発を進めている。執筆や講演活動なども。著書に『宇宙を撮りたい、風船で。』(キノブックス)がある。詳しくは、ホームページ(「ふうせん宇宙撮影」)へ。

2018.03.23

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