はじめて友だちの家で過ごす夜、まりは夜中に目が覚めてしまいます……『ひとりで おとまり』
はじめて友だちの家で過ごす夜、まりは夜中に目が覚めてしまいます……
『ひとりで おとまり』
6歳のまりは、今日はじめて、仲良しのあやのちゃんの家に泊まります。「まりちゃん、じぶんの うちだと おもって なんでもいってね」あやのちゃんのお母さんに優しく迎え入れられ、まりは、はりきって家へあがりました。
あやのちゃんと遊んでいると、あっという間に時間が過ぎて、あやのちゃんのお母さんが、ふたりをお夕飯に呼ぶ声がきこえてきました。お夕飯は、まりの食べたことのない、手巻き寿司。あやのちゃんの家族に食べ方を教えてもらって、まりも食事を楽しみます。子どもだけでお風呂に入って、パジャマに着替えて、歯磨きも。友だちと一緒だと、何もかもが愉快になるのはなぜでしょう。楽しいひとときは飛ぶように過ぎ、あっというまに寝る時間になりました。
「これで ねたら、もう あしたになっちゃうね」「ずっと きょうだったら いいのにね」ふかふかの布団にもぐりこみながら、まだ楽しい気持ちが続いて、ひそひそ話をするふたり。けれども、しばらくすると、あやのちゃんが眠り、まりも目を閉じました。
ふと、まりは目を覚ましてしまいました。いつもと違う天井に、いつもと違う布団のにおい。急に、自分がいつもとは違う場所にいる実感が湧いてきます。お母さんの顔も浮かんできました。もう一度眠ろうと目をつむっても、眠れなくなってしまいました。
「おばちゃん……」ついに、まりは起き上がってふすまに向かって声をかけます。すると、あやのちゃんのお母さんが顔を出し、「ちょっと まっててね」と言いながら、何かを用意しはじめました……。
あやのちゃんのお母さんが用意してくれたのは、あったかくてあまい、ホットミルク。そのほっとする味に、体も心も温まり、まりはその後、朝までぐっすりと眠ることができたのでした。
作者は、『まよなかのトイレ』などを手がけた、まるやまあやこさん。実は、この作品の中で起こる出来事は、まるやまさんがはじめて友だちの家に泊まったときの実体験に基づいているのだとか。牛乳屋さんを営んでいた友だちのお母さんは、夜中に目が覚めてしまったまるやまさんに、おいしいホットミルクをふるまってくれたそうです。絵本を読むと、そのときまるやまさんご自身が感じたであろう、包み込まれるような安心感が、じんわりと伝わってきます。
絵本では、友だちと一緒のお夕飯やお風呂など、お泊まりでしか味わえないような特別な経験が、ひとつひとつ丁寧に描かれていますが、無事にお泊まりを終えて、自分の家に帰ったまりの様子を描いた場面も、みどころのひとつ。まりを迎える家の温かさ、そしてお泊まりを終えたまりの満足そうな表情ときたら。ちょっぴり大きくなって帰ってきたまりの姿は、実際に絵本を開いて見ていただけたらと思います。
お泊まりをしたことのあるお子さんにとっては、「そうそう!」と共感できる場面が盛りだくさん、まだしたことのないお子さんにとっては「やってみたい!」と期待が膨らむこの絵本。ひとりでできることが増えてきた子どもたちと一緒に、楽しんでいただきたい一冊です。
担当・U
チームふくふく本棚の2年目。趣味は、好きな俳優の演技を真似して悦に入ること。
2019.10.04