絵本作家の誕生日

4月26日 瀬田貞二さん|子どもの本という海を航海する、帆船の航海長

月に1回、その月にお誕生日を迎える作家・画家とその作品をご紹介する「絵本作家の誕生日」。4月26日は、子どもの本という海を航海する、帆船の航海長だった瀬田貞二さん(1916年-1979年)のお誕生日です。

子どもの本という海を航海する、帆船の航海長

瀬田貞二さん(1916年4月26日生まれ)


瀬田貞二さんという名前を聞いたことがない方も、三びきのやぎのがらがらどんおだんごぱん』『ナルニア国ものがたり』(岩波書店)の訳者だといえば、「それ、読んだことある!」となるのではないでしょうか?   

『三びきのやぎのがらがらどん』の原題は、“The Three Billy Goats Gruff(しわがれ声の3匹の雄山羊)”でした。しわがれ声を子どもたちにもわかりやすい「がらがら」という擬音に、そして昔話にでてくる「長者どん」「太郎どん」などの親しみを込めた敬称をつけて、「がらがらどん」と、瀬田さんは訳しました。   
この印象的な「がらがらどん」という名前でなければ、同じ名前を持つ大・中・小のやぎたちが、トロル(おに)との問答で自分たちの名を名乗り、次にもっと大きい「がらがらどん」が来ると言って危機を回避していく場面は、こんなにも子どもたちの心をとらえることはなかったかもしれません。

瀬田貞二さんの仕事は、子どもの本の翻訳にとどまるものではありませんでした。『かさじぞう』『ふるやのもり』『ねずみじょうど』などの昔話の再話や、『きょうはなんのひ?』『お父さんのラッパばなし』 などの物語の創作も手がけ、いずれの作品もロングセラーとして読みつがれています。
そして、『落穂ひろい-日本の子どもの文化をめぐる人びと』『絵本論-瀬田貞二子どもの本評論集』『児童文学論-瀬田貞二子どもの本評論集』にまとめられた評論や研究においても、多くの功績と示唆を、子どもたちそして、子どもに関わる大人たちのためにのこしています。   

堀内誠一さんは、かつてインタビューで瀬田さんのことをこんな風に語っています。
「福音館で絵本を始めた時代というのは、これから発見して開拓するいろんな大陸がある時代だった。グラフィックデザインだとか都市計画だとか。その一つに、絵本っていう大陸があって。ぼくなんかは、そこへ船出してゆくオンボロ帆船の少年水夫って感じでね。でも航海長に瀬田さんがいたっていうわけで。明るいっていえば明るい時代でしたよね。」(「こどものとも」1986年7月号の折り込み付録)

戦後の日本において、絵本という分野に足をふみいれた多くの作家たちが、瀬田貞二さんを師として慕っていました。瀬田さんという存在があったから、絵本の世界に入った作家たちも数多くいます。

焼け跡が残る日本で、「私は自らのあらゆる能力と時間を、子どもたちにむかって解放しなくてはならない」と決心した瀬田貞二さんは、生涯“自分流に子どもの本とつきあう暮らし“を続けました。その人物と功績に興味を持たれた方は、『子どもの本のよあけ-瀬田貞二伝』(荒木田隆子 著)をお読みください。

瀬田貞二さんの作品はこちらからご覧いただけます。  

2019.04.26

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