日々の絵本と読みもの

明日に向かって伸びろ!『埴沙萠 植物記』

埴沙萠 植物記
昆虫や動物は大好きだけれど、植物はちょっと……、という人は多いと思います。なぜでしょう……。動かないから? 顔がないから? 声を出さないから?
でも、じっと見てみると、花はまるで顔のようですし、葉っぱやツルは手や腕のよう、そして根っこは足のようです。太陽の光を浴びて芽を出し、葉を広げ、花を咲かせ、大きく育っていく姿は、昆虫や動物となんらかわりはありません。
わたしたちは、植物の驚くべき習性や行動を実は見ているようで見過ごしているのかもしれません。

写真記シリーズ『埴沙萠 植物記』では、作者の埴沙萠(はにしゃぼう)さん(1931~2016)が、これまで想像さえしなかった不思議な植物の姿を、四季折々、1900枚の写真の中で紹介しています。
主なフィールドは、作者の郷里の大分県野津町と、当時お住まいのあった国東半島周辺。どの写真も「楽しい思い」の中でシャッターを切られたものばかり。庭を眺めながら、野山を散歩しながら、1年365日、毎日の素敵な出会いの積み重ねで生まれていった世界です。大反響があったNHKスぺシャル「足元の小宇宙~生命を見つめる植物写真家~」で撮影の様子をご覧になった方もいらっしゃるかもしれません。

植物は、季節の移り変わりの中でさまざまな表情を見せますが、1日の中でも朝、昼、晩と大きく変化します。そして、晴れの日、雨の日、雪の日など、その日のお天気によっても植物の姿は一変することがあります。作品の1枚1枚の写真からは、日々、足元の植物の巧みな生態に感心し、必死に大地に根を広げ踏ん張っている小さな命を応援する作者のまなざしが感じられます。

作品は、1年間を12の月で区切り、それぞれの月のカレンダーには、毎日の写真とともにその日の「発見」が綴られています。これに加えて、78種類のテーマで、植物の知られざる多彩な姿を紹介しています。たとえば、「ヒッチハイク~くっつく実」「ピッチングマシン~花粉をはじくカテンソウ」「恐竜が食べた草?~シダ」「胞子の噴火~キノコとカビ」など。作者ならではの視点とユーモアに思わず引き込まれてしまう世界です。


前書きに、埴沙萠さんはこのように語っています。「いっぽんの草が、ささやかに生きることのために、どれほど大きな英知と愛とが、『自然』からそそがれていることか。そのことを伝えたいという思いもあって、この『植物記』をつくる決心をした」と。
ぜひ、地球誕生後、何億年も進化を繰り返してきた、そこにある小さな草木を、この本を片手にもう一度ゆっくり眺めてみてください。

担当S 現在、私は小さな畑でスギナの巨大地下茎と格闘中。植物ってすごいゾ!

◇◇福音館の写真記シリーズについて◇◇
各分野の専門家たちが動植物の生態や人間の暮らしを、世界中に追い求め写真におさめたシリーズです。
大型本ならではの迫力で、専門家たちが目の当たりにした事実と驚きを伝えます。
全11作品はこちら
 

2022.08.02

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