クリスマスの夜、まずしい仕たて屋さんに届いた幸運とは?
『グロースターの仕たて屋』
もうすぐクリスマス! 家族や友人へのプレゼントを何にするか考えるのも楽しい時期ですね。既製品も素敵ですが、手作りで何か用意してみるのはいかがでしょうか。今日は、針と糸を使って自分の手で何かを作ってみたくなる、クリスマスの絵本『グロースターの仕たて屋』をご紹介いたします。
『グロースターの仕たて屋』は「ピーターラビットの絵本」シリーズの1冊で、作者のビアトリクス・ポターが1番気に入っていたとされる絵本です。
イギリスのグロースターに住む貧しい仕たて屋は、小さな仕事場で身分の高い人が着る、レースやサテンでできた、高価な美しい服を作っています。上等な布を無駄なく使い、残ったちっぽけな布を見て「これでは、なにをつくるにも たりぬ。つくるとすれば、ねずみのチョッキか」とつぶやきながら仕事をしています。
ある寒い日、仕たて屋はグロースターの市長さんから注文の入った婚礼衣装を作りはじめます。刺繍があしらわれた、べに色の絹製の豪華な衣装です。婚礼の日はクリスマス、頑張って作れば、間に合いそうです。
すべての布を断ってきちんと揃え、次の日の朝縫い始めるばかりに準備をして仕事場を出ます。けれども、ただ1つ足りないものがありました。それはボタンホールをかがるための「べにいろのあな糸」です。
自宅に帰った仕たて屋さんは、同居している猫のシンプキンに、あな糸を買ってくるようお願いしていました。けれども、夕飯に食べようと用意していたねずみを、仕たて屋が逃がしてしまったことに腹を立てたシンプキンは、買ってきたあな糸をかくしてしまいます。
あな糸がないことにショックをうけた仕たて屋は、寒さと疲労で熱を出し「あな糸がたりぬ!」と納期のせまる上着を気にしつつ、寝込んでしまいます。そしてクリスマスの朝、やっと回復した仕たて屋が仕事場で目にしたものとは……。
ビアトリクス・ポターが描く美しい布地の数々や、「まるで 小さなねずみが さしたように見える」ボタンホールの丁寧な刺繍の絵を見ると、ボタンホールのような小さな部分でも、誰かの手によって大切に作られていることに気付くことでしょう。そして、普段身につけているものを大切に思う気持ちも生まれてくるのではないでしょうか。
クリスマスの夜、普段あたりまえに身の回りにあるものや家族に、1年を無事に過ごせた感謝の気持ちを持ちたくなるような1冊です。
『グロースターの仕たて屋』をはじめとする、「ピーターラビット」シリーズは、100余年もの間、世界中の子どもたちに愛され続けるロングセラー絵本です。のどかなイギリスの田園を舞台に、小動物たちが繰り広げる、時にはユーモラス、時にはシリアスな事件が、写実的かつ淡く美しい水彩画によって展開されます。
2019年11月に、おはなしの内容や美しい訳文はそのままに、表紙デザインを一新した新装版として生まれ変わりました。全24冊を美しい箱につめた「贈り物セット」もご用意しています。時代をこえて読み継がれる作品の魅力を、子どもたちにも感じていただけたら幸いです。
2019.12.18