日々の絵本と読みもの

クリスマスを心待ちにしている子どもたちに贈る、心温まるチェコのクリスマスイブの物語『クリスマスのあかり』


『クリスマスのあかり チェコのイブのできごと』

今日は待ちに待ったクリスマスイブ。チェコに住む一年生の男の子フランタは、朝からそわそわしています。この国でクリスマスイブにプレゼントをもって子どもたちのもとにやってくるといわれている「ちいさなイエスさま」の訪れが待ち遠しいのです。そんなフランタを見かねたお父さんがフランタにおつかいを頼みました。そのおつかいとは、街の中心にある教会に行って「ベツレヘムのあかり」と呼ばれる特別なともしびをランプのろうそくにわけてもらい、消さずに家へ持ち帰ってくること。お母さんに支度を整えてもらったフランタは、はりきって家を出発します。

教会に着き、無事ランプにあかりをともすことができたフランタ。しかし、ここで思わぬハプニングが。「ちいさなイエスさま」のお役に立つようにと、教会の募金箱にねじ込んだ20コルナ硬貨が、箱の途中で詰まってしまったのです。焦ったフランタは、逃げるように教会をあとにしました。

悲しい気持ちで帰路についたフランタは、道中で同じようにしょんぼりと歩いているおじいさんに出会います。貧しいこのおじいさんは、亡くなった奥さんのお墓に供えるために、なけなしのお金で買った花束を、だれかに盗られてしまったのでした。おじいさんのことを気の毒に思ったフランタは、おこづかいでおじいさんに新しい花束を買うことを思いつきますが、花屋に着いてみるとお金が足りません。そのときフランタは、募金箱に詰まらせた20コルナのことを思い出して……。心優しい少年のちいさな冒険が、愛らしい挿絵とともにみずみずしく描き出された、異国情緒あふれるクリスマスのお話です。

2017年にチェコで出版されたこの童話の著者、レンカ・ロジノフスカーさんは、チェコの高校で現在も教鞭をとっている学校の先生。小さな男の子の素直で繊細な心の動きを、その仕草や表情に注目した独特の視点で巧みに描き出しています。翻訳はチェコで幼少期を過ごした経験を持つ翻訳家の木村有子さん。邦訳版の最後のページには、木村さんによるチェコのクリスマス文化の紹介も挿入されており、日本とは一味違ったクリスマスの様子を、丁寧な解説をとおして知ることができるのは、この本の魅力のひとつです。

そして、チェコでの原書から挿絵を描いているのが、ブラチスラヴァ国際絵本原画展グランプリを受賞したチェコ在住の画家、出久根育さん。心にぽっと火を灯すような美しく温かい挿絵にもぜひご注目ください。

物語は全部で21章。少し長いと思われるかもしれませんが、一つの章は長くても4ページで、すべての見開きに挿絵がついています。長い文章を読むことに慣れていないお子さんでも無理をせずに読み進めることのできる童話です。お子さんへのクリスマスの贈り物として、また、アドベントカレンダーのように、クリスマスを待つ間、幼い子どもに1章ずつ読んであげる本としても、おすすめの一冊です。



金曜担当・U
チームふくふく本棚のNew Face。趣味は、好きな俳優の演技を真似して悦に入ること。

2018.11.30

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