11月10日は『ねないこだれだ』の刊行記念日!
赤ちゃん絵本のロングセラー『ねないこだれだ』。夜にねない子をおばけがつれていってしまう、というお話を小さいころにドキドキしながら読んだ記憶をお持ちの方も多いのではないでしょうか。せなけいこさんによるお話も、絵も、シンプルであると同時に一度読んだら忘れられない独特な魅力に満ちています。
この絵本が刊行されたのは今から50年以上も前の1969年11月10日。今回は、皆さんもよくご存じの『ねないこだれだ』が、一体どのような経緯で生まれたのか、そして作者のせなけいこさんが、どんな思いで作品を作られたのかを少しご紹介します。
『ねないこだれだ』の作者・せなけいこさんは、1931年に東京・新宿の牛込町に生まれました。小さい頃から絵本に興味のあったせなさんは、やがて美術の道に進むことを志し、日本銀行に勤める傍ら、19才の時に童画家の武井武雄さんに師事するようになります。その後、雑誌のカットを描いたり、コピーライターの仕事をするなど忙しい日々を送っていましたが、なかなか絵本の仕事には繋がりませんでした。
そんなあるとき、せなさんは当時福音館書店から翻訳刊行されたばかりのディック・ブルーナさんの「うさこちゃん」シリーズを買い、息子さんに読んであげます。とても喜び、「もっとよみたい」とねだる息子さんの姿を見たせなさんは「それなら自分で続きを描いてあげよう」と考え、自ら絵本を手作りしました。タイトルは『にんじん』。せなさん自身は、これが出版されるとは全く考えていませんでしたが、福音館書店の編集者がその絵本に興味をもったことがきっかけとなり、遂に絵本作家としてデビューすることになります。
せなさんのデビュー作は4作品あります。上述の『にんじん』に加え、もじゃもじゃ頭をきれいにする『もじゃもじゃ』、なんでもすぐに「いやだ」というルルちゃんが主人公の『いやだいやだ』、そして、ねないこはおばけになってしまう『ねないこだれだ』。これらを『いやだいやだの絵本』という4冊セットとして発売しデビューしたのです。いずれも赤ちゃんの日々の生活などを描いたユーモラスなお話を、温かみのある貼り絵の手法で描いた絵本でした。これらの作品は瞬く間に話題となり、翌年には第17回産経児童出版文化賞を受賞するなど、せなさんは人気絵本作家の仲間入りを果たすことになります。『いやだいやだの絵本』に収められた4作品はいずれも今なお多くの読者に親しまれるロングセラー絵本ですが、なかでも印象的なストーリーとおばけの姿が特長の『ねないこだれだ』は高い人気を獲得し、累計発行部数350万部を超える (2024年10月現在) せなさんの代表作となったのです。
『ねないこだれだ』は、おばけのせかいに連れていかれたまま終わるラストが、時に「怖い」という印象を残す作品でもあります。けれどせなさんは、子どもたちを怖がらせようと思って本作を手がけたのではもちろんありません。同作のラストについて、せなさんは以前のインタビューで次のように述べています。
「ふふふ。家でよく子どもたちにおばけの話をしてましたけど、二人とも面白がっていましたよ。娘なんか『おばけの世界に飛んでいって、遊ぶんだ』なんて言ってね」(出典:『絵本作家のアトリエ2』福音館書店 (現在は品切れ))
デビューのきっかけになった手作りの『にんじん』のエピソードからも分かるように、せなさんの作品づくりは、常に子どもたちへの温かい、愛情に満ちた目線と共に行われており、『ねないこだれだ』ももちろん例外ではありませんでした。本作が子どもたちに長く愛されているのも、少し怖さを感じさせる一方で、不思議な存在のおばけというものへの興味、そしてそれと共に "飛んでいく" というどこかワクワクするような体験を心の中で思い描くからなのかも知れません。
皆さんも本作を読んで頂く際はぜひ、おばけに連れられて飛んでいった先の楽しい "おばけのせかい" を想像してみてくださいね。
2024.11.10