日々の絵本と読みもの

新生活をむかえるきみへ『ぼくは ふね』

『ぼくは ふね』

春。進級したり、小学校へ入学したり、子どもたちが新しい環境へと一歩踏み出していく季節です。大人たちもまた、新年度から大きく環境が変わるという人もいるでしょう。そんな、新生活をむかえるすべての人にお薦めしたい絵本をご紹介します。

2024年に五味太郎さんが絵本作家デビュー50周年の「集大成」として刊行した絵本『ぼくは ふね』です。

主人公は、ちいさな船。けっこう気まま、かなり気楽に、海に浮かんで進んでいきます。ところが、周りから「じゃま! どけ! どけ!」と言われたり、「どこからきたの?」「どこへゆくの?」「なにしてるの?」と質問攻めにあったりします。

どこから来たのか、どこへ行くのか、何をしているのか……改めて問われると、難しい質問です。

そこへ「嵐」がやってきます。初めての事態に翻弄される船は、地面に乗り上げてしまいました。海を行く船が地面にあがってしまったら、どこへも行けません。「もうだめだ ぼく おしまいだ…」となげくちいさな船に、こんな声がかけられます。

▶あのね きみ みずにうかんですすむことに こだわりすぎているんだよ…
▶そのきになれば どこだってすすめるものだよ

思ってもないひと言でしたが、ちいさな船はその気になります! そして、地面を進み、空に浮かび、山や畑、街の中をどんどん進んでいきます――。


五味さん自身が手がけた特別な装丁で、黒いスリーブから本を取りだすと、ちいさな船が海へ出航するように見える造本になっています。この本を読むと「自分は自分のままでいい」と言われた気がして、知らないうちに何かにこだわっていた気持ちがラクになります。まわりと同じ必要も、まわりと比べる必要もない。「ぼくはふね」というタイトルには、「I am who I am(わたしは、わたし)」でいいんだという応援のメッセージが込められているような気がします。もっとも、作者の五味さんにそんなことを言ったら、「考えすぎたよ!」と言われてしまうでしょうか。子どもから大人まで誰もが共感できる一冊です。

担当F・4月になっても、特に環境が変わりません。気持ちだけでも心機一転すべく、何か新しいことを始めてみたいと思いつつ、さて、何を始めたら……。

2025.04.01

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