特別エッセイ|今井真実さん「はじめて・りょうり」
はじめて料理をしたときのことを覚えていますか? ご飯をお皿に盛りつけたり、調味料で味付けをしたり。大人からするとちょっとしたことでも、はじめての子どもたちにはとても新鮮な体験ではないでしょうか。
新刊『はじめて・りょうり トマト』『はじめて・りょうり ごはん』は、そんな子どもたちの“はじめての料理”がもっと楽しくなる絵本。人気料理家で、雑誌やwebなどで幅広く活躍されている著者の今井真実さんに、本作に込めた思いを綴っていただきました。
自分をしあわせにする味をさがそう
今井 真実
私には、ふたり歳の離れた子どもがいて、どちらの子も絵本が大好きでした。特にふたりのお気に入りは食べものが出てくる絵本です。
絵本を読むときに、私も彼らも絵本の中の動作を想像して、真似をしていました。オムライスをアーンとしたり、アイスクリームをぺろぺろなめたり。それは私にとっても宝物のような時間でした。
しかし時折、 困ったこともありました。読み終わったと同時に、きょうはオムライスじゃないの? わたしも作ってみたかったのにー! なんでー? と言われるようになったのです。だって…急いでごはんを作っているときには、子どもの望みを叶えることが難しいときがありますよね。しかし、彼らが抱いたせっかくのやる気を断ってしまうことに、私は罪悪感を覚えるようになりました。それに子どもにとって絵本というものはとても影響があるもので、苦手だった食材も絵本を通して食べられるようになることも。だからこそ、子どもの気持ちを尊重したかったのです。
そしてそんな思いから出来たのが、この絵本でした。
それを子どもたちにも知ってほしい。だから、冷蔵庫によくある材料でさっと作ることができて、大人がピッタリ横についていなくても、ひとりでもチャレンジできる。そんな食べものの絵本を作りたいと思いました。
「はじめて・りょうり」というテーマで書かれたこの絵本は、レシピブックとしても使っていただけます。
素材に味をつける、そのシンプルな作業こそが自炊の第一歩です。塩をちょっぴりきかせるとおいしい。たくさん塩を入れるとおいしくなくなるどころか、食べられなくなる。そんなことは当たり前、と思うことでも、子どもたちにとっては「はじめての料理」です。
料理は失敗しないと上達しません。なぜなら失敗をすることによって、自分にとっての「おいしい」がわかるようになるからです。自分にとっての適量を知ると料理に対しての楽しさは広がります。
トマトを噛んだときの溢れる汁、炊き立てのごはんのやさしい湯気。その素朴な味は、しあわせのしるしだと思っています。自分をしあわせにする味ってなんだろう。そんなことを子どもたちと話しながら、この絵本を楽しんでください。
今井 真実(いまいまみ)
料理家。神戸市生まれ。「作った人が嬉しくなる料理を」という考えを元に、雑誌、web媒体、企業広告をはじめ、多岐にわたるレシピ製作を担当。noteに綴るレシピやTwitterでの発信が注目を集める。著書に『毎日のあたらしい料理 いつもの食材に「驚き」をひとさじ』(KADOKAWA)など。
2025.04.11