歌人がつづる、子育てエッセイ『一緒に生きる』
『一緒に生きる』
子どもを育てることには正解がない、毎日さぼることもできない、家事も仕事もあって、本当に大変ですよね。歌人、作家として活躍する東直子さんによる子育てエッセイ『一緒に生きる 親子の風景』は、そんな人々の気持ちが少しでも楽になってほしいという著者の願いがこめられた作品です。
卒園の思い出、クリスマスやお正月の過ごし方、風邪をひいたときなど子育てにまつわる四季折々、些細な日常の風景が、東さん自身の子育て経験から掘り起こされたり、社会のあり方に思いをはせたりしながら綴られていきます。他の子育てエッセイと一味違うのは、茨木のり子、小林一茶、黒田三郎、俵万智……などといった先人たちの詩や短歌が添えられていて、その先人たちが子育てや育児をどのように言葉にしていたのかが織り交ぜられているところ。教科書で勉強したような先人たちも、幼い子と暮らしていくなかで、現代に生きる自分たちと同じような気持ちになっていたことがよく分かります。
こちらの作品は、月刊誌「母の友」で6年間(2008年4月号~2021年3月号)掲載された「母の風景」を単行本として新たにまとめたものです。単行本化にあたりタイトルが『一緒に生きる』に変わりました。
その理由について、「あとがき」に東さんの言葉が載っていますので、一部をご紹介します。
「母の視点からのエッセイを書いてほしいという「母の友」編集部の依頼を受けてつけたタイトルでしたが、子育てに関しては(略)両親だけではなく、祖父母、きょうだい、近所の人、街の人、国中の人、そしてこの世界に生きるすべての人、あらゆる生き物と共に、一緒に生きて、一緒に成長することが、育児なのだという思いを込めました。」
「女性」や「母」、ジェンダーをめぐる考え方が変わりつつある現代、子育てはもっと自由であっていい、という東さんからのメッセージが感じられるエッセイです。気になる目次から好きに読んでも大丈夫。忙しい毎日を過ごしている方々に、少しだけ時間を作って、ホッと一息つくときにおすすめしたい作品です。
担当A・次男を抱っこひもで抱っこして、長男と手をつないで歩いているときに「今が一番幸せな時ね」と年配の女性に声をかけられました。本当にそうだったなぁ、そして何年か後には、今この瞬間のこともきっと幸せな時だったなと思い出すだろうから、(難しいけれど)日々楽しく過ごしたいと思います。
巻末に収録された特別対談はこちらからもお読みいただけます。子育て中だった自分に語りかけながらエッセイを書いていたという東さんと、現役で子育てをしている作家の山崎さんとで、子育てについてのあれこれを語ってもらいました。
2022.05.09