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はたして、ロボットと野生動物は共生できるのか?『野生のロボット』

はたして、ロボットと野生動物は共生できるのか?

『野生のロボット』

あらしの夜、貨物船が沈没し、木箱が無人島に流れ着きます。中に入っていたのは新品のロボット。壊れずに無事だったのは1体だけでした。思いがけない偶然から、スイッチが入り起動しはじめたロボット=ロズ。ロズは太陽エネルギーを動力とし、そのコンピューター頭脳には生存本能も備わっていました。危険を避け、常に正常に機能し続けようとする本能です。

その本能を発揮し島で生きぬくために、ロズは、島に住む野生動物たちを観察することでサバイバル術を学んでいきます。その観察力で動物たちの言葉もどんどん覚えていきます。はじめはロズを怪物よばわりして、警戒したり攻撃をしたりしてきた動物たちですが、両親を失ったガンの赤ちゃんの母親がわりとなったロズが子育てに孤軍奮闘する姿を見て、しだいに心をひらきはじめます。

その後も、危機一髪のこぐまを助けたり、動物たちのために冬の避難場所をつくったりしてすっかり野生動物の一員となったロズ。そこへある日、3体のロボットをのせた不気味な飛行船がやってきます。かれらの目的とは? そして、ロズと動物たちの運命は……? 


無人島に漂着するというシチュエーションは、古典的な物語設定として多くの本や映画作品に登場しますが、人間ではなくロボットというのが、なんとも斬新。この物語の作者、ピーター・ブラウンさんは、アメリカの権威ある絵本賞「コールデコット賞」にノミネートされたこともある気鋭のイラストレーターで絵本作家ですが、なんと、ほかの絵本の仕事をしないで6年がかりでこの作品に取り組んだそうです。文字通り作者入魂の、初めての児童文学作品で、「自然と科学は共存しうるのか?」という大きなテーマに挑んだとも言える作品ですが、語りかけるようなやわらかな文体で、小学校の中学年ぐらいでも無理なく読めます。
そして、単に自然と科学技術の共生や、AIの将来について考えさせるということではなく、サバイバル冒険物語として、そして、異なる者同士が、相手を思いやり信頼しあうようになるヒューマンストーリー(人間は登場しませんが)としても、とても印象的な作品です。

さて、不気味な飛行船の飛来で、幸せなサンクチュアリを侵されてしまったロズと動物たち。飛行船に乗っていたロボットたちとの壮絶な戦いの果てに、ロズはある決断をします。それは……?
ニューヨーク・タイムズ紙に、「子どもが必ず夢中になる本」と評された本作を、ぜひ存分にお楽しみください。


「日々の絵本」水曜担当・Y
チームふくふく本棚の長老。趣味は、お酒と野球とトロンボーン。

2018.12.05

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