『オンネリとアンネリのおうち』に寄せて
書店を訪れた時『オンネリとアンネリのおうち』を可愛らしく紹介した手書きPOPに目にとまりました。作品への愛あふれるPOPを描いてくれた、くまざわ書店・宇都宮インターパーク店の書店員・植竹奈々絵さんに映画と原作の魅力を語っていただきました。
くまざわ書店宇都宮インターパーク店
植竹奈々絵さん
私の大好きなフィンランドの児童文学『オンネリとアンネリのおうち』の映画版が公開され、美しい映像と音楽で彩られたことを、本当に嬉しく思います。映画のあとに、柔らかい語り口のこの可愛らしいお話をぜひ読んでみてください。きっと幸せなひと時となるに違いありません。
アンネリちゃん(金髪の女の子)視点で物語が進む、原作『オンネリとアンネリのおうち』は、7歳のふたりの女の子が、優しい老夫人「薔薇乃木夫人」から、ひょんな幸運から家を買って、お隣さんたちと仲良く楽しく暮らすお話です。
薔薇乃木夫人は魔法使いのような存在で、彼女がうっかり間違って建てた家は、たまたま「小さな女の子がふたりで住む」のにぴったりでした。魔法が使えるお隣さんや、少し影のあるお隣さん、親切なおまわりさんに見守られながら夏を過ごします。そんな、北欧の輝かしい夏の雰囲気を堪能できる作品ですが、忘れてはいけないのは、小さなふたりの女の子、オンネリちゃんとアンネリちゃんは、それぞれ異なった理由で、ちょっぴりさみしい思いをしているということです。
私が、初めて本を手に取ったときのことを、今でも覚えています。商品として陳列するために触れて、その手触り、題字の書体、鮮やかで自由な、想像の余地を残してくれている装画と、装丁がたまらないと感じました。帯はなく、あらすじもなかったのですが、冒頭の1文「オンネリちゃんはわたしの親友で、わたしはオンネリちゃんの親友です。」が、この本は優しくてわくわくするものが詰まっていると教えてくれるようでした。
購入して、その日のうちに読みました。そして、あまりのかわいさに打ちのめされました。あそび部屋を初めて目にしたアンネリちゃんのように、声もなく、しばらく呆然としていました。薔薇乃木夫人が、居場所のない、正直者のふたりに用意してくれた場所の、素敵なことといったら!
映画では、まさしく本の頁から立ち上ったかのようでした。余すところなく、すべてのシーンがデザイン画のように美しく、小物も、壁紙も、食べ物も、庭のバラも、想像よりもずっと華やかで、でもちっともうるさい感じではないのです。
特に青色の使い方が印象的で、花のモチーフと合わせて、長い冬を持つ国の、短い夏への憧れや愛情が表れているのかなと思いました。フィンランドの夏は、じめじめじっとりな日本の夏とは全然違うらしいのです。とてもうらやましい。
好きな場面のひとつを紹介します。「正直なひろいぬしさんにさしあげます」という手紙とともに落ちていた大金入りの封筒を、中を開けずに交番に届けたオンネリちゃんは「わたしたち、正直なのかどうか、わからなかったんですもの」とおまわりさんに伝えます。
封筒を開けて、ただの大金だったことに「シールだったらよかったのに」と、ふたりはとってもがっかりするのです。このお金でシールくらいいくらでも買えるよ、とか、そんなことはふたりには関係ないのです。大家族のオンネリちゃんのお家の、家計の足しに、とも考えません。そんな無欲なふたりに、こちらも無欲なおまわりさんはお金をそのまま渡してしまいます。「それでいいの?」と思うのですが、たぶんそれも作品に流れる魔法のうちのひとつです。
こういった、くすっと笑えるエピソードが散りばめられる中で、思いのほかまじめなテーマも根底に流れているような気がします。ただかわいらしいだけのお話ではなく、「善きこと」を説教臭くなく伝えてくれるのが本作品。軽やかにメッセージを受け取れるのは、オンネリちゃんとアンネリちゃんのふたりが、どんな時でも楽しんでいるからでしょう。大人が思っている以上に子どもは色々考えているし、周囲の事情について理解しています。大人になってしまった私たちがそうだったように……。
私は、この素晴らしい本と映画『オンネリとアンネリのおうち』を、ふたりと同じくらいの小さな女の子たち、あとは普段は忘れがちですが、かつて小さな女の子だった方々、そして可愛い物が大好きなすべての方におすすめします。
2018.06.28