北欧ファン必見! フィンランド発の映画「オンネリとアンネリのおうち」トークイベント vol.1
フィンランド児童文学『オンネリとアンネリのおうち』の映画が6月9日から公開されます。2月に開催された北欧の映画祭「ノーザンライツフェスティバル」で行われたトークイベントのご報告します。フィンランド文学翻訳家・末延弘子さんがフィンランドについてたっぷり語ってくれました。vol.1は、フィンランドの児童文学と、子どもと読書についてです。
フィンランド児童文学との出会い
フィンランドのタンペレ大学留学中にフィンランド文学を勉強していたのと、ヘルシンキにあるフィンランド文学協会に勤務していた時、児童文学を手がける作家さんと出会う機会がありました。
これまでに訳した児童書は35作品くらいです。クレンニエミの「オンネリとアンネリ」シリーズは1960年代の作品ですが、私はおもに1990年代以降の児童書を紹介してきました。今から13年前に、フィンランドのノポラという姉妹作家の『麦わら帽子のヘイナとフェルト靴のトッス』(原作1989年~・後に映画化)と『リスト・ラッパーヤとゆかいなラウハおばさん』(原作1997年)というシリーズを訳しました。
1960年代の「オンネリとアンネリ」シリーズには童話やナンセンスの要素が入り交じり、1990年代に描かれたノポラ姉妹の作品は現実味とユーモアが強いように思います。現代に近いほど、社会で起こっていることがより反映されている感じです。
共通点としては、どちらもフィンランドらしい現実的で合理的なテーマが感じられましたが、どちらも読み終えたあとにたくさんの明るい選択肢が残ります。読んだ後は、困難に向き合う力や前向きに生きる自信がついたようにも思えます。テーマは重くても、終わりには幸せの約束があると思います。
フィンランド児童文学の魅力
フィンランドの児童文学の魅力は、いっぷう変わった主人公たちがたくさんでてきて、考え方や見た目が異なっていながらも、それを否定せず肯定しながら共生しているところです。異なる価値観を排除するのではなく、どうやって付き合っていけば仲良くやっていけるか、とみんなが考えているところが素敵だなと思います。
作家レーナ・クルーン(注)は、相違性よりも類似性のほうが気になると言っていました。つまり、何がみんなと違っているのかではなく、何をみんなと共有しているのか、を大事にしたいということです。これは私たちがそれぞれ違うのは当然だという前提があっての考えだと思います。違うことを気にするのではなく、それよりも何をみんなとわかちあっているのかを考えたほうが世界はうまくいく、ということなのだと思います。
フィンランドの子どもたちの読書と読み聞かせ
フィンランドの子どもの本は、絵本であっても、内面に深く入りこんでいくような難しいテーマのものや、文章量が児童小説かと思うくらい多いものもあり、作り手が子どもの読む力を過小評価しないという特徴があると思います。テーマは難しくても、かつて見たもの、かつて経験したもの、そういった感覚に訴える事象がたくさんあれば、先が読めなくても子どもはそれらを繋げて全体へ組み立てます。これを「想像する」と言うのかもしれません。
知り合いは皆、子どもたちに本を読んであげていたようです。小さな子どもにはまだ読めない文字もあって、親の読み聞かせが生きてくるのだと思います。読み聞かせの時間は、目で読むだけではなく、耳でも聞いて、複数の五感が刺激される。それだけではなく、親の愛情も感じられる大切な時間です。フィンランドは夫婦共働きの家庭がほとんどですから、子どもと繋がる時間はなおさら大切です。フィンランドの子どもたちの読み解く力の高さも、読み聞かせが後押ししていると思います。
(注)レーナ・クルーン:1947年ヘルシンキ生まれ。現代フィンランドを代表する小説家・児童文学作家。
2018.06.08