日々の絵本と読みもの

海外児童文学の香りただよう、驚きと喜びに満ちたファンタジー『ヤービの深い秋』

海外児童文学の香りただよう、驚きと喜びに満ちたファンタジー

『ヤービの深い秋』

小さいころに親しんだ物語の一節が、ふとした瞬間によみがえることはありませんか? あわただしい毎日の中で、ほっと一息ついたとき、ちょっと落ちこんだ時、あるいはとても嬉しいことがあったとき、子どものころに何度も読み返した大好きな作品が、自分の中に今も息づいていることを感じます。

今日は、長編物語に親しみ始めた子どもたちに届けたい、新しい児童文学シリーズをご紹介します。2作目が刊行されたばかりの「マッドガイド・ウォーター」シリーズは、『西の魔女が死んだ』でおなじみの梨木香歩さんが贈るファンタジー。水辺で暮らす、ふわふわの白い毛でおおわれた小さな生きもの〈ヤービ〉が、家族や仲間たちとくりひろげるささやかな冒険を描いた作品です。

物語の舞台となるのは、マッドガイド・ウォーターと呼ばれる、美しい湖沼地帯。ある日、近くのフリースクールで教師をしている〈ウタドリさん〉は、不思議な生きもの〈ヤービ〉に出会います。第1作『岸辺のヤービ』では、二人の出会いから、ヤービ一族の暮らしぶりまでが、味わい深い情景描写とともに綴られます。

続く2作目は、『ヤービの深い秋』。日に日に寒さが増していく中、ヤービと仲間たちは冬ごもりの準備に大忙し。一方ウタドリさんは、フリースクールの生徒〈ギンドロ〉が持ちかけてきた相談について考えていました。物語の鍵となるのは、ヤービたちが〈ユメミダケ〉、ウタドリさんたちが〈テーブル・マッシュルーム〉と呼ぶ、幻のキノコです。同じキノコを目指して、ヤービたちと、ギンドロとウタドリさん一行は、それぞれ森の奥へと進んでいきます。

森、水辺、植物、鳥や魚たち。体の大きさも、暮らし方も違うヤービ一族と人間とでは、同じものを見ていても、受け取り方は少しずつ異なります。とはいえ、同じ環境の中で生きていることに、変わりはありません。ウタドリさんは、ヤービとの交流を通じて、二人の生きる世界が緩やかに重なりあっていることを感じるのでした。

個性的なキャラクター、おいしそうな食べもの、仲間との小さな冒険と、古きよき海外児童文学を思わせる要素が散りばめられていながら、変わりゆく環境への鋭い視点、異なる生活をする他者と共に生きていくことなどが織り込まれ、現代を生きる子どもたちにこそ届けたい重層的なファンタジーとなっています。

秋の夜長に、ぜひじっくりとヤービの世界に浸ってみてくださいね。


担当・T
品切れになってしまったファージョンの短編集が今も手放せません。幼少期から海外文学派の入社4年目。

2019.11.13

  • Twitter
  • Facebook
  • Line

記事の中で紹介した本

関連記事