日々の絵本と読みもの

様々な噴火現象をリアルな絵で伝える、迫力に満ちた科学絵本『火山はめざめる』

様々な噴火現象をリアルな絵で伝える、迫力に満ちた科学絵本


『火山はめざめる』

富士山をはじめ、日本には北から南までたくさんの山がありますが、そのうち活火山はなんと、100以上もあるということをご存知でしたか? 日本に住むわたしたちにとって、火山の噴火は意外と身近な現象なのかもしれません。今回は、そんな火山の噴火の様子や、火山のふもとで暮らす人々の生活風景を、写実的な絵で描いた科学絵本をご紹介します。
 
『火山はめざめる』は、ある火山の噴火の歴史を、昭和時代、江戸時代、平安時代、そして2万5000年前と、時代をさかのぼりながら追った1冊です。絵本に登場する火山のモデルは、群馬県と長野県の県境にそびえる浅間山。過去に何度も大きな噴火を起こし、いまも活発な火山活動が観測されている、代表的な活火山のひとつです。

これは、昭和時代の浅間山。てっぺんから、煙がもくもくと立ち上っていますが、農作業をしている人たちの様子は落ち着いています。どうしてでしょう? 

実は、昭和時代の浅間山は、小さな噴火を度々起こしていて、このくらいの規模の噴煙では、地域の人々も驚かなくなっていたのです。「きょうは南風だ」「じゃあ、けむりはお山の北にいくね」というように、風向きが違えば、さほど大きな影響もありません。

一方こちらは、江戸時代の噴火のときの町の様子。このときの噴火では、噴煙がたくさん出て、空が真っ暗になってしまうほど。軽石と呼ばれる石が町中に降り積もり、人々の不安を煽りました。

火山が噴火するとき、起こることはいつも違います。平安時代には、濃い噴煙からなる火砕流が発生し、村をひとつ丸々のみ込んでしまいました。そして、2万5000年前には、山が丸ごと崩れる山体崩壊という現象も……。恐ろしいけれど、自然の壮大さを感じずにはいられません。 この場面は、ぜひ実際に絵本を手にとってご覧いただければと思います。

作者のはぎわらふぐさんは、長年、地図や鳥瞰図を描いてきたグラフィックデザイナー。今回の絵本制作では、地形や地層の様子、残されている様々な記録を調査したうえで、過去の噴火現象を周辺の景観とあわせて忠実に再現しています。監修は、30年以上浅間山の地質の研究を続けている地質学者の早川由紀夫さん。地質学と歴史学の視点、そして最新の研究結果も取り入れて書かれた最後の解説ページは、読み応えたっぷりです。絵本の火山のモデルは浅間山ですが、取り上げている噴火現象は浅間山だけでなく、多くの火山に通じるものであることを踏まえ、解説では噴火現象の一般的な特徴についても説明しています。

大迫力の噴火の描写もさることながら、この絵本のもうひとつの魅力は、風景の中に描きこまれた各時代の人々の様子。どの時代も、日常の営みが生き生きと描かれているぶん、町や村に噴火の影響が及んでしまう場面は衝撃的ですが、人は自然の中に生きているということを改めて感じさせられます。

怖いと感じるシーンもあるかもしれませんが、火山の国に生きているということを実感し、その存在に向き合うことのできる一冊です。火山の近くに住んでいても、いなくても、火山のことが気になったら、ぜひ手にとって読んでみてください。きっと、自然の力強さ、そしてその中でなお、営みを続けてゆく人間のたくましさを感じることができるでしょう。



担当・U
チームふくふく本棚の2年目。趣味は、好きな俳優の演技を真似して悦に入ること。

2019.06.25

  • Twitter
  • Facebook
  • Line

記事の中で紹介した本

関連記事