光合成をしない、奇妙な植物たちのちょっとずるい生存戦略 『「植物」をやめた植物たち』
『「植物」をやめた植物たち』
緑色でもなければ、葉っぱもない。そんなふしぎな植物を見たことがありますか? ふつう、多くの植物は葉緑素という緑色の色素をつかって光合成をして、日光から栄養を作り出しますが、世の中には葉緑素を持たず、生き延びている植物たちがいるのです。
このような光合成をやめた植物たちは、カラフルで変わった形のものばかり。種類もさまざまです。小さくて目立ちにくいものが多いですが、実は沖縄から北海道まで日本各地の身近な森や林にひっそりと生息しています。
どうして彼らは光合成をやめてしまったのか? どんな花を咲かせ、どのようにして小さな命をつないでいっているか? 暗い森のなかで生きのびるための、彼らのたくみでちょっとずるい生存戦略をときあかしていくのがこの作品です。
ふつうの植物は、光合成をして糖やでんぷんなどをつくり、キノコやカビなどの菌類に分け与えるかわりに、菌類から水や肥料をもらっています。ところが、この光合成をやめた植物たちは、なんと栄養分を与えないどころか、自分の根にやってきた菌糸を消化し、栄養にしてしまうのです。
また、腐ったキノコの匂いを出してハエに花粉を運ばせたり、カマドウマに果実を食べてもらってタネを広く分布させるなど、ほかの生き物たちとの関わり方も変えたものもたくさんいます。
このようなずる賢い寄生植物が森の生態系のなかに入り込み、生きていけるということは、森が豊かであるということにも発展していきます。
作者の植物学者末次健司さんはこう語ります。「光合成をやめた植物は、動物と同じように、ほかの生きものを『食べて』生活しています。彼らは『植物とは何か』という疑問をわたしたちに投げかけてくれるおもしろい存在なのです」と。
奇妙だけれども美しい写真の数々にはつい引き込まれてしまう魅力があります。
山登りやハイキングに行く前にぜひ読んでおきたい1冊です。
担当S 近くの山で探してみたけれど見つからず……。いつか出会いたい謎の「植物」たち!
photographs © Kenji Suetsugu
2024.11.20