日々の絵本と読みもの

コップの中から空へ海へ。氷の旅へ出発!『こおり』

こおり
みなさんは色水を凍らせて、きれいなピンクやブルーの氷をつくろうとしたことはありませんか? でも、結果はうまくいかなかったはず……。この不思議を解き明かしてくれる本が『こおり』です。

水を凍らせると氷になりますが、その過程にこそ秘密が隠されています。水の中にはたくさんの「水の分子」が漂っています。(作中では、「水の分子」を「手足を広げた子ども」として描いていますが、これがとてもわかりやすい!)そして、水は冷たくなるにしたがって、分子同士が次々に「手」と「足」をつなぎはじめ、最後にはたくさんの「水の分子(子ども)たち」が規則正しいジャングルジムのような形になり、それが氷に変わっていきます。


 

このとき、実はもうひとつの大きな変化が生まれます。「手」と「足」をつなぐことができなかった「水の分子」以外の別の物質は、なんと外に押し出されてしまうのです。
みなさんも夏場持ち歩くために凍らせたジュースなどを溶かしながら飲むときに、とても濃く感じたことはありませんか。それは外に押し出された「水の分子」以外のものを飲んでいるからです。

氷のなんでも押し出すこの頑固な性質は、雲の氷から生まれる雨のことや、地球規模の海流の動きにも発展していきます。実は南極や北極で海の水が凍るときに、氷が押し出した大量の塩分がきっかけになって、海洋深層流という深海をめぐる巨大な海流がうまれているのです。


氷というミクロな世界が、いつの間にか、海洋深層流が地球を1000年以上かけてめぐるという壮大なマクロの物語へ広がっていく展開は圧巻です。今、大きな問題である地球温暖化を新たな側面から理解していくためにもお薦めの作品かもしれません。

作者は、雪氷物理学の第一人者前野紀一さん。斉藤俊行さんが描く、透明感あふれる美しい絵とともにどうぞお楽しみください。

担当S 海洋深層水は、最後に日本の沖合にやってくるそうです。地球は不思議でいっぱいですね!

 

2024.07.25

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