あのねエッセイ

今月の新刊エッセイ|渡辺鉄太さん『どうながのプレッツェルとこいぬたち』

「おさるのジョージ」シリーズなどでおなじみのレイ夫妻による、世界一どうながのダックスフントの絵本『どうながのプレッツェル』。1978年の刊行以来、40年以上にわたり愛されています。じつは、その幻の続編がありました。今回、初邦訳となる『どうながのプレッツェルとこいぬたち』です。前作でグレタと結婚し、さらには五つ子の家族が増えたプレッツェルが、本作ではお父さんとして子育てに奮闘する姿を描いています。翻訳を手がけた渡辺鉄太さんに、本作の魅力をエッセイにして綴ってもらいました。

『どうながのプレッツェルとこいぬたち』を訳して

渡辺鉄太

レイ夫妻作品『どうながのプレッツェルとこいぬたち』の原書を最初に手にした時、これはいいなと思いました。前作『どうながのプレッツェル』(渡辺茂男訳)と同様、青と黄色の明るい表紙、レトロでポップなイラストの本書は、私の目をグッと惹きました。またグラフィックノベル風に場面がコマ割りにされた本書には12ものエピソードがコンパクトにまとめられていて、プレッツェルのお話をたっぷり楽しめる趣向になっています。私は、「タンタンの冒険」シリーズなど、ずっしりと中身の詰まった良質のコミックを大いに楽しんだ経験があるので、このプレッツェルの作品も中身が濃くて、大好きになりました。
この本にグッと惹かれたもうひとつの理由は、お父さんになったプレッツェルが五匹の子犬たちと繰り広げる物語の楽しさです。そのひとつひとつのエピソードを読んでいると、私自身の子育てを再体験しているような喜びで心が一杯になります。私も若い父親だった時分、プレッツェルのように娘や息子と一緒になって夢中で遊んだものです。子どもからすれば、父親というのは子どもにはできないいろいろなことができるスーパーヒーローでもあります。私も、子どもたちのキラキラする視線を浴びながらプレッツェルみたいにカッコよく振る舞って賞賛を浴びたり、時には大失敗したりしたこともありました。だから、この本はお父さんと子どもたちが一緒に読んだらとっても楽しい作品だと思います。もちろん、お母さんも一緒に読んで楽しいに決まっていますが!



私は、一緒に遊んだのと同じくらい子どもたちとたくさん絵本や物語を読みました。親子の読書は、楽しいばかりでなく、生活に奥行きと深みを加えてくれます。子どもたちは、絵本を読みながら、プレッツェルやグレタや子犬たちの声色や仕草を頭の中で想像したり、どんな場所でどんな暮らしをしているのか考えているのです。そんな想像力は、子どもたちに創造性の源泉となる能力を与えてくれます。そこが絵本の素晴らしいところだと私は思うのです。
ひとつ個人的なエピソードを述べるならば、一作目『どうながのプレッツェル』は私の父で子どもの本の作家だった渡辺茂男(1928−2006)が45年前に翻訳しました。今回その次作を息子の私が訳すことになったのは、プレッツェルと私の間に何かの縁があったからに違いありません。そんな私が『どうながのプレッツェルとこいぬたち』を訳す上で意識したことは、私よりずっと若い日本のお父さんたちが、どんな風に娘や息子たちに話しかけるのかということでした。やはり、ひと世代違うと話し方もいくらか変わるものです。
『どうながのプレッツェルとこいぬたち』はアメリカで1946年に出版されていますが、それが2020年代に日本語に訳されて再び世に出るのですから、翻訳というのは実に摩訶不思議な、まるでタイムマシンのような作業だと感じています。
どうか、『どうながのプレッツェルとこいぬたち』をお楽しみください!



渡辺鉄太(わたなべてつた)
1962年東京生まれ。大学勤務を経て、児童書の創作や翻訳に専念。著書に『くつぬげた!』(加藤チャコ絵、こどものとも年少版2022年3月号、福音館書店)、『ぱくぱくはんぶん』(南伸坊絵、福音館書店)、訳書に『クマと仙人』(父渡辺茂男と共訳、のら書店)、「としょかんねずみ」シリーズ(瑞雲舎)などがある。メルボルンこども文庫主宰。オーストラリア紙芝居協会会員。オーストラリア、メルボルン在住。

2023.04.05

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