思わず触りたくなる動物たち『やぎさんのさんぽ』『どこ どこ? ねどこ』
『やぎさんのさんぽ』 『どこ どこ? ねどこ』
1匹の子やぎが散歩に出かけると、ちょうちょがついてきました。とっとことっとこ走り出した子やぎは、切り株を見つけると「ぴょん」と飛び越えます。「じょうず」とちょうちょにほめられた子やぎは嬉しそう。『やぎさんのさんぽ』は、ふわふわの毛並みの子やぎや色とりどりの植物を刺繍で表現した美しい絵本です。
大きな木の穴のなかで眠るリス。海藻を布団のように体にのせて海で眠るラッコ。お母さんの羽のなかで昼寝をするハクチョウのヒナ。リズミカルなことばの繰り返しが心地良く、はじめて絵本を読むお子さんにも充分たのしめる『どこ どこ? ねどこ』。
どちらも思わず触りたくなる、刺繍で表現した愛らしい動物の絵本です。この絵本をつくったのは、刺繍作家のjuno(ユノ)さん。このたび、2作品同時刊行を記念して刺繍のことや初めての絵本づくりについて、お話をうかがいました。
インタビューのさいごには、実際にjunoさんが一針一針刺して子やぎの絵を制作する様子を動画でご紹介します。絵本とあわせて、ぜひご覧ください。
――毛がふわふわした感じの刺繍がすごく素敵です。このような技法で描くようになったいきさつがあれば、教えてください。
この技法は、「ターキーノットステッチ」または「スミルナステッチ」といいます。
もともとは、満開のミモザの花の、ほわほわ感をどうにか表現できないかと考えて、いろいろと試してたどり着いたのですが、リスやウサギの尻尾などにもぴったりな技法なので、この技法を使い始めてから、どんどん動物を刺繍するのが楽しくなってゆきました。
――刺繍の魅力とは、なんでしょうか。また、外国の刺繍で惹かれるものがあれば教えてください。
刺繍の魅力はいろいろありますが、わたしが特に惹かれるのは手触りでしょうか。
線や面を刺すだけでも、インクとは違う存在感があり、糸を解くと消え去ってしまう儚さもまた魅力だと思います。手で触れる手触りだけでなく、光沢や陰影から、目でもテクスチャーが読み取れ、想像がふくらみます。
世界の各地に、刺繍を生業とする少数民族の人たちが存在していて、シンプルな道具で驚くほど多彩で繊細な作品を作られています。自然と調和した暮らし、暮らしの中に手仕事がある、その生き方全体も含めて大変惹かれるものがあり、ペルーのシピボ族やラオスのレンテン族の人たちに会いに行ったことがあります。
中国の山岳民族であるミャオ族の高いデザイン性と人間離れした技法、途方もない時間がかけられたであろう作品も、本で読んで気になっていますし、インドのベンガル地方に伝わるカンタ刺繍も自由で多様性があり、見ていて飽きません。
自分の作品が写実的でもりっとしている反動なのか、このような素朴なものだったり一定の規則性があったりする図案のものに惹かれます。
――様々な形で刺繍の作品を制作されていますが、今回はじめて絵本を制作されたそうですね。制作過程での秘話、エピソードがあれば教えてください。
いつもはお洋服や雑貨などの装飾として刺繍をすることが多いので、図案として美しければOKなのですが、絵本の場合は、お話の世界ではありながらも、子どもたちが絵本をとおして、初めて新しいものに出会うきっかけになることもあります。
ですので、例えばやぎさんの足の曲げ方はこれで良いのか、リスが寝床にする木の種類は針葉樹なのか広葉樹なのか、といった自然科学的に正確であるかということに気をつけるなど、小さい子にちゃんと伝わる絵になっているのかということを一番に考えてゆきました。
といっても、だいたいの流れが決まったらまずは刺してみる、といういつもの私のマイペースなやり方を尊重してもらったので、完成したものはラフとだいぶ違っていたりして。持ってゆく時はいつも博打のような気分でした。
絵としては綺麗だけどわかりにくい、ということで、見開き1ページをまるごと差し替えたところもありました。締め切りも近くなった頃に、一番の見せ場になる場面について編集部で検討したいということで、結果を待っている時などは本当にどきどきしました。
そんなこともふくめて、効率は悪くても、まずは好きなようにやらせてもらい、そのうえで絵本のスペシャリストたちの意見を聞くのは、とても興味深く勉強になりました。(おわり)
まるで紙に絵を描くように、糸と針で布に動物や植物を刺繍していくjunoさん。ぜひ、実際に絵本を手に取って繊細な手仕事の粋をあじわってみてくださいね。
junoさん絵本制作動画公開中!
今回、絵本制作の途中で、junoさんが実際に刺繍していく様子を動画に撮ってくださいました。『やぎさんのさんぽ』に登場する、子やぎのふわふわの毛並みは、いったいどうやってできているのでしょう。
こちらから、ぜひご覧ください!
担当M
子やぎがほめられたときの誇らしげな表情がみごとに刺繍で表現されていて、junoさんのつくりだす世界に魅せられてしまいました。
2023.02.17