あのねエッセイ

今月の新刊エッセイ|堀川 真さん『たぶん、なんとかなるでしょう。』

6月の新刊『たぶん、なんとかなるでしょう。』の作者・堀川 真さんは、『あかいじどうしゃ よんまるさん』(福音館書店)をはじめとして、絵本や読みものの絵を手がけています。その堀川さんが、二人の男の子のお父さんとして奮闘する爆笑の日々を綴った新刊に寄せて、子育て中のお父さん・お母さんが思わず共感してしまうエッセイを書いてくださいました。

子育てって 笑えません?

堀川 真


 子どものいる風景、私はそれをおだやかなものと思っていました。実際、長男ブンを授かってからしばらくの間はそんなふうで、晴れた日は静かに散歩をし、泣いては抱き上げてあやす。育児日記には食事の内容や排便数などをこまめに書きこむ余裕がありました。
 ところがブンは成長するにつれ、「何やってくれてんの!?」ということを連発し始めます。普通に見たらそれは、育児の悩みに相当するものだったのかもしれませんが、私の角度から見るとそれはもう笑いの種。それに次男ダイも加わって、育児日記はネタ帳と化していき、「母の友」誌上にて連載中の「たぶん、なんとかなるでしょう。」へとつながるのです。
 本作のねらいは当初「育児あるあるマンガ」でした。そりゃあ私だって世間でいう「あるある」な子育てがしてみたかったですよ。しかし、私の目に飛び込んでくるわが子の所業といえば、父にじょうごをくわえさせて牛乳をそそいでくる(22話)、いただきますといった瞬間に背中にカレーがついている(26話)等々、まったくふんわりとしたところがございません。連載は早々と「子育ておもしろマンガ」に舵を切ったのでした。


 あるとき「ブンちゃんとお別れする日が来るのが寂しい」というお手紙をいただきました。私ははじめ、連載終了の話をされているのかと思っていたのですが、最近じんわりとわかるのは、成長に伴って子どもが違う人になっていくような寂しさのことを言われていたのだなということです。手紙を下さった方は、きっとそうやって子どもの成長を見送ってきたのだなと。実際、ときどきブンが私の前に立ち、自分はここまでおおきくなったよとニヤニヤしながらアピールするときがあります。それがいつも私の思っているのよりも10センチは高い。そうやってとうとう今は私の鼻のあたりまで来てしまいました。「たぶん、なんとかなるでしょう。」を描きはじめたころの腰くらいだった彼は、もういないのです。目の前の彼を見つつ、幾度となくちいさなブンとお別れをしてきたんだなあと、しみじみ思うのです。

 忘れられない表情があります。ブンが小一のころ「戦いだー」と全力で打ち込んできた一撃が思いのほか強烈で、私は本気で痛がってしまいました。それを見てはっとした彼の顔。これ以降戦いごっこは、力を加減しあう遊びになりました。ダイはまだ小さいので力いっぱいぶつかってきますが、いずれブンと同じくそんな時間にさよならをするときが来るでしょう。それをもって毎夜にわたる全力の戦い遊びは卒業、「たぶん、なんとかなった」のかもしれませんが、それはちょっと寂しくもあり、新しい何かの始まりだったりするのでしょう。

 「育児あるある」をおおきく見れば、育児にはとんちんかんなことが起こるのがあるあるで、個別の何かで喜んだりへこんだりすることもないのかなと思うのです。自分が親の願うとおりに育ったとは思えないように、子どもらもゆるくおおきくなっていくのでしょう。「たぶん、なんとかなるでしょう。」と力を抜いて過ごせれば、どんな結果も受け入れることができると思います。気がつけば五年分になっていた連載を一冊にしたという喜びよりも、ふりかえれば確かにあったそんな時間をかたちに残せたことが何よりもうれしいと思っている私です。


 



堀川 真(ほりかわ・まこと)
1964年、北海道紋別生まれ。弘前で農学、旭川で美術、木工を学び、その後、創作活動に入る。絵本や読み物の絵を描くほか、施設での療育活動、子どもたち向けの工作のワークショップ等にも携わる。著書に、『あかいじどうしゃ よんまるさん』『かんたん手づくり おうちでおもちゃ―あかちゃんとあそぼう』(共に福音館書店刊)、『ゆーきーこんこん』(長野ヒデ子 作、佼成出版社刊)、『おべんとうさん いただきます』(教育画劇刊)などがある。

2017.06.13

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