たくさんのふしぎ400記念連載

『絵で読む 子どもと祭り』ができるまで|第5回 岸和田だんじり祭(大阪府岸和田市)

「たくさんのふしぎ」400号は、絵本作家の西村繁男さんが描く『絵で読む 子どもと祭り』。こちらの連載では、4年間かけて西村さんと全国9ヶ所の祭りを取材した担当編集者が、数千枚のなかから選りすぐった写真とともに、絵本の裏側を紹介します。 第5回は、大阪府岸和田市で行われている「岸和田だんじり祭」です。

第5回 岸和田だんじり祭(大阪府岸和田市)


勇壮な祭りとして有名な「岸和田だんじり祭」。300人を越える人たちが4トンの山車をひき、直角のカーブを猛スピードで曲がる「やりまわし」を目の前で見たときは、圧倒的な迫力に鳥肌がたちました。

取材では、岸和田市内の宮本町のみなさんにお世話になりました。写真は、だんじりを神社に奉納する「宮入り」のときのもの。岸城神社に続くこなから坂でやりまわしをするのは、祭りの間でこのときだけ。1年に一度の見せ場ですので、みんな気合いを入れて、一気に坂をかけあがり、やりまわしをします。だんじりをただひくだけではなく、だんじりをみんなでひいて、神様に捧げる、というのはこの祭りを知るうえで重要なことですので、絵にもしっかり描かれています。

事前に知ってはいましたが、実際に見ると、大人といっしょに、綱のまえのほうを子どもがひいている姿には衝撃をうけました。この猛スピードによくついていくなと。それに、子どもがいっしょにひいて危なくないのしかしらとも考えてしまいます。町の古老に聞くと、子どもの頃からだんじりをひくときは、「こけても、綱はなすな」と教えこまれるそうです。綱をはなさなければ、速度についていけななくてもまわりにひっぱっていってもらえますし、こけても後ろのひき手を巻き込んでしまうことがないからです。祭り本番と試験曳きの3日間、ずっと子どももだんじりをひっぱります。彼らはいったい何㎞走っているのか。フルマラソンの距離は優に超えるような……

だんじり祭を紹介するにあたり、西村さんに描いて頂きたいと考えたのが、この夜の曳行でした。勇壮な昼間の曳行とうってかわり、ちょうちんをつけただんじりがゆっくり街をまわるのです。このときの主役は子どもたち。ここぞとばかりに、子どもがだんじりのなかに乗り込んでお囃子を演奏したり、屋根のうえにのったりします。ひき手もほとんど子どもたち。昼間はまだ参加できない小学校に入るまえの子どもたちまで、綱をひきます。大人たちはリラックスして、子どもたちを見まもっていました。そんな夜の曳行を、子どもと大人がいっしょに楽しんでいる場面を、西村さんはとても細かく丁寧に描きだされています。子どもたちの仕草ひとつひとつを見ているだけで、夜の曳行ののんびりとした空気を思い出します。

取材では、どの祭りでも、祭りに参加する子どもたちに密着して、祭りのはじめから終わりまでを、できるかぎりつぶさに見ました。祭りの本番中だけでなく、準備や休憩、食事をしているところも取材しましたので、早朝から深夜までほとんど休みはありませんでした。西村さんは取材の合間合間で、気づいたことやおもしろいと感じたポイントをメモされていました。それぞれの祭りの絵のなかに描かれているのは、取材で実際に見聞きした膨大な素材のうちのほんの一部です。この絵本の濃密な絵は、そうした地道な取材を通して、子どもたちに紹介したいポイントを選びぬいて描かれたものなのです。


 

(第6回「さくらもとプンムルノリ」へ)

2018.06.19

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