ひな人形に込められた親の心こそが、子どもへの贈りもの
『三月ひなのつき』
3月3日はひな祭りです。女の子の健やかな成長を祝うひな祭り。代々受け継がれるような立派なひな人形にあこがれているお子さんもいることでしょう。でも、立派なひな人形がなくても、心に残るひな祭りにすることはできます。そんなひな祭りの思い出を綴った、母娘のお話『三月ひなのつき』をご紹介します。
よし子とお母さんにとって、3月3日はひな祭りでもあり、一昨年前に亡くなったお父さんの命日でもあります。母娘二人暮らしの中、よし子は学校の帰り、ショーウィンドーに飾られた豪華なひな人形を目にします。自分のひな人形を持っていないよし子には、とても魅力的に見えました。
大喜びで、お母さんに豪華なひな人形の話をしますが、興味を示してくれません。お母さんには、心に美しく刻み込まれている、空襲で燃えてしまった思い出のひな人形がありました。そのせいで、ひな人形がなかなか家にはやってこないのだとよし子は感じます。また、お父さんが亡くなって、ひな人形がやってくる望みは薄くなったことも分かっていました。それでも、自分のひな人形がほしいよし子はついに、お母さんに「買ってえ」と泣きながらねだります。家のことを考えて、いままで欲しいのを我慢していたことが、こらえきれなくなったのです。
お母さんは、よし子の気持ちを受け止め、もっと大きなデパートにつれていきました。たくさんの豪華なひな人形をよし子に見せた上で、「ねえ、よし子、こんな話して、あなたにわかる?」とお母さんの言葉で、ひな人形をよし子にまだ用意していないわけと、お母さんが大切に思っていることについて一生懸命語りかけるのでした。
よし子にはその気持ちは届いたのでしょうか。そして、よし子はどんなひな祭りを迎えたのでしょうか。
心をこめて作られたものこそ、贈りものとして真にふさわしいものだと伝える母と、その気持ちを受け止め、質素だけれども端正に折りあげられた「折りびな」の可憐さに納得する娘。物に込められる「心」こそが大切な贈りものだと、改めて私たちに気づかせてくれるお話です。
『三月ひなのつき』に登場する、折り紙で折った折りびなの作り方は『新版 折りびな』で解説されています。折り紙も付いていますので、作ってみたいと思われた方はぜひこちらも見てみてくださいね。
2018.03.02