『ここが わたしの ねるところ』ができるまで
『ここが わたしの ねるところ――せかいの おやすみなさい』は、世界各地のベッドタイムを、美しい刺繍工芸でつづった絵本です。お話を彩る繊細な刺繍を手掛けたのは、サリー・メイバーさん。制作現場の様子を、メイバーさんの言葉とともにお届けします。
絵本づくりの舞台うら サリー・メイバーさんの仕事場
わたしは、自分の作品を「奥行きの浅い舞台装置」として考えるのが好きです。舞台には風景があって、登場人物や細々した道具が物語に命を吹きこむのです。それぞれの場面を仕上げるのに1~2カ月かかるので、この本をつくりあげるのに2年を費やしました。
レベッカ・ボンドさんの原稿を初めて読んだとき、さまざまな文様や風合いの材料がぎっしり詰まった、あたたかな家庭の様子が思い浮かびました。そのイメージを大切にしながら、世界のさまざまな地域の子どもたちや建物、風景などの資料写真をじっくりとながめました。そして、まずラフスケッチを描き、それを参考にしながら作品をつくっていきました。
素材を選んで、手縫いする。
手持ちの素材から、それぞれの場面にもっとも合いそうな布を選びました。たとえば日本の場面では、たたみの質感を出したくて、色あせたリネンを使いました。祖母からゆずりうけて、もう何十年も物置にしまってあったものです。いくつかの場面では、ちょうどよい大きさのプリント模様が見つからなかったので、わたしがミニチュアの布に刺繍でデザインを縫い取りました。
絵本の場面はすべて手仕事で仕上げています。長い年月をかけて試行錯誤の末に身につけた、さまざまなテクニックをつかいました。わたしはミシンをつかっても思い通りの雰囲気や感触を表現できないのです。だから自分自身の指先で素材をあつかうことが、わたしのイメージを読む人と共有し、実感してもらうための最良の方法でした。
布と糸、ビーズ、針金から生まれる、繊細な世界。
三次元的で斬新な表現を加えて、小さな世界の魅力を引き出そうと思って、さまざまな種類のビーズを縫いつけました。ビーズを選ぶ作業は、まるで演劇のオーディションのようでした。よりリアルでいきいきとした表現を求めて、手持ちのビーズの種類やサイズを吟味しました。
針金は、布や糸、ビーズ同様、作品づくりになくてはならない材料です。しなやかな素材を支える枠組みとしてつかったり、自立可能なかたちをつくるためにつかいました。ワイヤーが見える部分はすべて糸でおおい、それがデザインになじむようにしました。
子どもの顔を木のビーズに描いて、からだをつくり、小さな指をつくり、ちっちゃなちっちゃなパジャマやナイトウェアを縫っているうちに、わたしは、子どもたちが大好きになりました。だから、その子たちが住むおうちをつくるのに、どれほど手間ひまがかかっても、気になりませんでした。
ミニチュアや動物たちが、物語を彩る。
ミニチュアで再現したらおもしろそうなものを見つけると、とっておいて、時々、作品に登場させています。それはいわば、物語世界をもりあげてくれる「びっくりマーク」みたいなものなのです。
それぞれの場面の、文章が載っている白いスペースに、フェルトでつくった動物たちが登場しています。読者が世界のさまざまな地域を思い浮かべるとき、手がかりになるといいなと思いました。