たくさんのふしぎ400記念連載

『絵で読む 子どもと祭り』ができるまで|第10回 祭りは時代とともに

「たくさんのふしぎ」400号は、絵本作家の西村繁男さんが描く『絵で読む 子どもと祭り』。こちらの連載では、4年間かけて西村さんと全国9ヶ所の祭りを取材した担当編集者が、数千枚のなかから選りすぐった写真とともに、絵本の裏側を紹介してきました。 最終回は、西村繁男さんが本作に込めた思いを語ったエッセイをお届けいたします。

祭りは時代とともに

西村繁男


はじめは、編集者から祭りの絵本を作りませんかと声がかかりました。祭り? 子どもの時の祭りの体験がなく、これまで人生で積極的に祭りに参加したこともない私が祭りの絵本を作る? とりあえず祭りらしき体験を思いおこしてみました。
大学生の頃、高知の県人寮に住んでいました。バンカラの気風が残っていて、パンツひとつの裸で吉祥寺の街を走り抜けるという慣例行事がありました。これが祭りかどうかは別にして、気分は日常をこえた祭りだったわけですが、私の中には恥ずかしさがあり、のめり込めない自分がいました。そんな私に祭りを執り行う人たちの思いや情熱を伝えられるか自信がありませんでした。
しかし、編集者と話をしているうちに自分の絵本づくりの原点に戻ってやればできるのではないかと思えてきました。その原点とは、『おふろやさん』『やこうれっしゃ』『にちよういち』といったこれまでに作った絵本です。これらの作品で、私は私の好きな場所を舞台に、そこを行きかう人々を観察して丹念に描きました。20~30代でやってきたことを、60~70代でやるのもおもしろいのではないか、祭りを舞台に祭りを行う人、見物する人、警備する人、商売をする人など、祭りを巡るたくさんの人々を描くことで、この絵本は作れると思えたのです。

この絵本では子どもの参加を条件に、季節と地域の祭りの種類に変化をもたせて、9か所の祭りを取り上げました。2014年から4年かけて、たくさんの方々にお世話になり取材を重ねることができました。子どもたちは実にたのしそうに祭りに参加していました。そして、どの祭りにも、子どもたちを支え世話をする人たちがおられました。そして、祭りは人々の営みであり、時代とともに変化しているという当たり前のことに気づきました。今多くの地域で、少子化や災害の問題が起こっています。祭りもそれらと無関係ではありません。祭りに関わる方々は伝統をどう継続していくか、智恵をしぼっておられます。

多文化の共生を目指す神奈川県川崎市のさくらもとプンムルノリ、過疎化と少子化の中で続けている高知県仁淀川町の秋葉祭、3・11東日本大震災による避難地域、福島県浪江町の安波祭など、さまざまなお祭りを取りあげることで、今の時代を伝えられたのではと思っています。
絵本づくりが終盤にさしかかったときに、各祭りに登場する猫(こきち)を描きいれることになりました。おかげで9つの祭りが結びつきました。
 

(『絵で読む 子どもと祭り』作者のことば より)



西村繁男(にしむら・しげお)
1947年、高知県に生まれる。中央大学在学中より、セツモードセミナーに通う。絵本に『やこうれっしゃ』『おふろやさん』『絵で見る日本の歴史』『絵で読む広島の原爆』『あからん』(以上、福音館書店)、『にちよういち』『おばけでんしゃ』(ともに童心社)、『じごくのラーメンや』(教育画劇)ほか多数。神奈川県在住。2017年、第66回神奈川文化賞受賞。

2018.07.05

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