地図を持って旅に出よう!『ぼくらの地図旅行』
『ぼくらの地図旅行』
「地図があったってだめさ」……その言葉の真意は?
小学5年生の男の子ふたりが、地図を頼りに、となり町の駅から歩いて10キロ以上先の岬の灯台を目指して“地図旅行”をする道行きを描く絵本です。
そもそもの始まりは、友だちのシンちゃんが、クラスメイトの安井くんとけんかしたことでした。岬にあるはずの灯台を見つけられなかったという安井くんに、シンちゃんが、自分だったら地図があれば迷わず灯台までたどりつけると言い張ったのです。そうして気づいたら、タモちゃんこと、主人公の「ぼく」もついていくことになっていました。
さて、旅は準備が肝心。シンちゃんの高校生のお兄ちゃんが、駅から岬の灯台までの道のりが載った地図を貸してくれ、地図の縮尺による距離の計算方法(「2万5000分の1」地図だと1センチは何メートル?)など、簡単な使い方をレクチャーしてくれます。
こうしてふたりは、地図と方位磁石を手に、一路、岬の灯台を目指す地図旅行へと出かけたのです。
絵本を開くと、ふたりの歩いていく風景に、同じ場所の地図が添えられており、「地図だとこのように書かれるのか」、あるいは「地図でこう表現されている場所はこんな風景なんだ」ということが実感できるようになっています。
読者は、ふたりの「地図旅行」に一緒に参加しながら、灯台・田んぼ・史跡・寺社などさまざまな地図記号をはじめ、等高線や道の種類による表記の違いなど、地図の読み方・使い方について自然と知ることができるのです。
ところで、この物語の一番の醍醐味は、迷う、ということ。地図通りに歩いていたはずなのに、気づけば思いもよらないところに出てしまっていたり、あるはずのものが見つけられなかったり。さらには、二人の仲もちょっとぎくしゃくしてしまい……。
でも最後には、思いがけず胸が熱くなる場面が待っています。「地図があったってだめさ」というシンちゃんの言葉の真意は? ぜひふたりが“地図旅行”のはてに行き着いた先を見届けてください。
作者は、「ズッコケ三人組」シリーズ(ポプラ社)などで知られる那須正幹さんと、『やこうれっしゃ』や『おふろやさん』などの絵本がある西村繁男さんのコンビ。物語作家の那須さんならではの飽きさせないストーリー展開と、町の人びとの日常風景や、結婚式やお葬式といったドラマがさりげなく描かれるなど西村さんならではの細部も楽しい一冊です(『おふろやさん』の親子も登場しています!)。
対象年齢は小学校中級からですが、子どもたちはもちろん、大人の方にもおすすめですよ。
担当F・冒頭の写真に写っているのは、絵本のモデルとなった山口市(旧秋穂町)の地図です。いつか、絵本とこの地図を手に、タモちゃんシンちゃんの足取りをたどる旅行をしてみたいです。
2024.04.19