あのねエッセイ

特別エッセイ|junaidaさん『街どろぼう』

『Michi』(2018年)、『の』(2019年)、『怪物園』(2020年)と、毎年、独自の想像力と美しく繊細な水彩画で、まったく新しい絵本を生み出しつづけているjunaidaさん。前作『怪物園』は、たくさんの怪物たちと子どもたちの不思議なお話でしたが、最新作『街どろぼう』(2021年)は、ひとりの巨人が主人公の小さな物語。新作の刊行によせて、作品誕生の背景にあった、子ども時代に抱いていた“ある感覚”について、そして物語に込められた思いについて綴ってくれました。ぜひ作品とあわせてお楽しみください。

自分と世界をつなぐもの

junaida

巨人が主人公の、この小さな物語がいつ生まれたのか、じつはあんまりよく覚えていません。気付けばずっと頭の中にあって、夜眠る前にイメージの世界で自分に読み聞かせていました。
その物語を、今こうして絵本という形で手にしてみると、ひょっとしたらこれは、幼かったころの自分に向けて作った物語だったのかもしれない、そんな気持ちが浮かんでくるのです。

僕の子ども時代は、転校ばかりだったこともあってか、どこにいてもなんだか足元がぽっかりと空洞のような、どこか所在の無い感覚にいつも付きまとわれていました。
べつに仲の良い友人ができなかったわけでも、その土地に馴染めなかったわけでもないのに、心のどこかで、まわりのみんなと同じでいられない、自分の居場所はここではない、というような違和感があって、常に居心地が悪かったのをよく覚えています。あの時は言語化できなかったけれど、きっとあれは、自分と世界とをつなぐ、何か大事なものが欠けている、そういう感覚だったんじゃないかなと思います。

この物語の巨人が最後に辿り着くような存在は、きっと人それぞれだと思います。
僕にとってのそれは、音楽でした。14歳で初めて聴いたパンクロックが、自分と世界とをつなぐ最初の扉を開けてくれたように、扉の鍵は、人に限らず、あらゆる出逢いの中から見つけ出せるはずです。たくさんなくてもいい、大勢いなくてもいい、なにかひとつでも、誰かひとりでも、自分と共鳴する何かと出逢えたとき、人は世界とつながる第一歩を踏み出せるようになるのかもしれません。

でもそれは簡単には見つからないかもしれません。その時は別のところに行けばいいし、そこにもなければ留まることなくまた先に進めばいいと思うのです。この物語のもうひとつのクライマックスは、巨人がひとり、街を去るシーンなのですから。

junaida(ジュナイダ)
1978年生まれ。画家。Hedgehog Books代表。『HOME』(サンリード)で、ボローニャ国際絵本原画展2015入選。『Michi』(福音館書店)で、第53回造本装幀コンクール・日本書籍出版協会理事長賞(児童書・絵本部門)受賞。その他の作品に、『THE ENDLESS WITH THE BEGINNINGLESS』『LAPIS・MOTION IN THE SILENCE』(ともにHedgehog Books)、宮澤賢治の世界を描いた『IHATOVO』シリーズ(サンリード)、『の』『怪物園』(福音館書店)、装画・挿絵の仕事に『せなか町から、ずっと』(斉藤 倫 作/福音館書店)などがある。

2021.07.21

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