作者のことば 奥修さん『珪藻美術館』
繊細で美しい「珪藻アート」の魅力に迫る『珪藻美術館』は、2019年に月刊絵本「たくさんのふしぎ」の6月号として刊行され、大きな反響を呼んだ1冊です。ハードカバー化に際し、著者の子ども時代のエピソードもまじえながら書かれた、刊行当時の「作者のことば」をご紹介します。
経験はつながっている
奥 修
幼少の頃、よく海に連れて行ってもらいました。相模湾の潮だまりで、エビ、ヤドカリ、ウミウシ、いろいろな生き物を採集して楽しくて仕方がなかった記憶があります。小学校3年生の夏に東京郊外に引っ越ししましたが、家の前にはきれいな川が流れていました。夢中になって魚捕りをして、釣りにも熱中しました。
ちいさな頃から星が好きでした。親戚に買ってもらった図鑑をみては宇宙に思いを馳せ、夜空を眺めていました。小学校4年生のクリスマスに、親戚から望遠鏡をプレゼントされて、うれしくて、月や土星、すばるやオリオン大星雲などを飽きもせず眺めていました。
また、花火が大好きで、近所で花火大会があるといつも見に行っていました。夜空に次々と輝く花火を見ていると心が洗われるようで、遠くの花火大会にも出かけるようになり、花火の本を買って勉強もしました。
大学では海洋化学系の研究を続け、試験管やビーカーを扱いながら、いろいろな化学処理を行う技術を身につけました。同時に、顕微鏡についても勉強し、珪藻とも出会いました。そして研究者になってからは、給料で自分の顕微鏡を購入して、職場でも自宅でも顕微鏡観察ができるようにしました。
こうして書いてみると、世界で数人しかいないと言われる「珪藻を並べる」という仕事は、私の人生にぴったりという気がしてきます。本書でご覧頂いたように、完成した珪藻アートはまるで花火や星空のように美しく、珪藻の採集は幼少期の遊びと変わりません。大学や職場で勉強した化学や顕微鏡技術も役に立ち、「顕微鏡で見る花火や星空」を作っているかのようです。
このように人生の経験というのはつながっていて、仕事に活かすことができます。皆さんも、様々な体験に夢中になったことがあると思います。ぜひいろいろな体験を積み重ねて頂き、そして将来、自分は何をしてきたのか振り返ってみてください。きっとその先には、あなたにしかできない素敵な仕事があるはずです。
奥 修(おく・おさむ)
1968年宮城県生まれ。東京水産大学(現・東京海洋大学)水産学研究科博士後期課程修了。博士(水産学)。科学技術特別研究員、学振特別研究員、明海大学・東京海洋大学、高知大学・三重大学で非常勤講師を歴任。現在は珪藻や放散虫のプレパラートを販売する「ミクロワールドサービス」の代表を務める。著書、共著書に『吸光光度法ノウハウ』(技報堂出版)、『ずかんプランクトン』(技術評論社、一部監修)、『東京湾-人と自然のかかわりの再生』(恒星社厚生閣、分担執筆)、『珪藻美術館 Diatoms Art Museum』(旬報社)など。日本プランクトン学会、日本海洋学会、日本環境教育学会会員。子どもに向けた単著は本作がはじめて。ホームページ:ミクロワールドサービス https://micro.sakura.ne.jp/mws/
2020.09.09