あのねエッセイ

今月の新刊エッセイ|長江青さん『ぐるぐるちゃん かくれんぼ』

今月の新刊エッセイは、絵本『ぐるぐるちゃん かくれんぼ』の作者、長江 青さん。ミナ ペルホネンの立ち上げにも関わった長江さんのあたたかな絵が魅力的な、子リスのぐるぐるちゃんが主人公の絵本シリーズの3冊目です。本作では、お父さんといっしょにかくれんぼをするぐるぐるちゃんが描かれています。子育てや家族についての思いを込めた、シリーズ全体について語ってくださいました。

ぐるぐるちゃんシリーズとともに

長江 青

 絵本は子どもの頃から40代の現在に至るまでずっと大好きなもので、どの街の本屋さんに行っても真っ先にチェックするのは絵本コーナーです。
 そんな私にとって、絵本づくりは大変な喜びですが、1冊ごとに、制作過程で意外なことを考えさせられたり気づかされたりする冒険でもあります。
 1作目の制作中には、妊娠と出産を体験しました。主人公のリスのぐるぐるちゃんについて、当初はなるべく擬人化しないで表現したいと思っていたのですが、子どもが生まれて、顔がついたものに喜んで反応する我が子の姿を見て「子どもが喜ぶ感情を優先したい! 擬人化、いいじゃない!」と考え方がガラッと変わったこともありました。赤ちゃんや子どもに安心感や喜び、嬉しさを感じてもらえるような絵本になれば、と作りました。
 2作目の「ぐるぐるちゃんとふわふわちゃん」を作っていた頃には、東日本大震災がありました。多くの方が家族や家を失い、私自身、1作目の制作時に「帰る家や親の存在を当たり前だと思っていた」ということにショックを受けました。それで、家も家族も登場しないけれど明日や未来が楽しみになる内容にしたいと思い、ぐるぐるちゃんが一人で出かけて、初めて会ううさぎと仲良くなるというストーリーにしました。
 そして、3作目、今度はお父さんが登場します。母親の子育てと父親の子育ては、違うと思います。性の違いだけではなく人としての個性の違いもありますから子どもとの関係性も違うでしょう。多くの子どもにとっては、父母の違いが最初に感じる「ひとりひとりの人間の違い」であり、「個々の人間と自分との関係性の違い」なのかもしれません。


 昨年まで10年間住んでいたベルリンでは、様々な家族のスタイルがあることを目の当たりにしました。結婚しないまま一緒に住んで子育てをしているカップルは大変多く、離婚後に子どもが父母それぞれの家に隔週で滞在している家庭や、養子を育てている同性婚など……。「一般的な家族のかたち」なんてないのだ、と思いました。そして、それぞれ環境は違えども、話を聞くとどなたも子育てに真剣に向き合い、また、子どもとの時間を持つことは当たり前だと捉えているように見えました。ついつい比べてしまうと、日本では、父親は仕事優先で、母親中心で子育てするという社会全体のムードが濃いと感じます。それがダメだと言いたいのではないのですが、そのムードによって家族の形の個性の幅やバリエーションを狭めているとしたらもったいないと思います。
 男は、女は、父は、母は、の前に、私だから、あなただから、あの人だから、この子だから……子育てを通して、まずは身近な人のやり方の違い、考え方の違いを受け入れながら誰もが当たり前に子どもに関わって行く環境をもって行くというのが、今の私にとっての理想です。そして、そのためには、子どもが自分以外の人と持った時間によって起こったできごとや受けた影響を、認めてゆくおおらかさも必要だと思っています。
 絵本は、手に取って下さる方に自由に解釈していただきたいと思っていますが、この絵本で表現したかったことを少しお伝えすると、父と母は違う、ということと、子どもが父的な男性との時間や関係の中で持つドキドキとワクワクです。「ぐるぐるちゃん かくれんぼしようか」と、大人から誘っていただきたいなぁというのは、お父さんには(お父さんなのに!)遠慮しちゃう子どももいると感じるからです。ぜひぜひ、積極的に「お父さん」「お父さん的な存在」になってくださいませ。



長江 青(ながえ・あおい)
武蔵野美術大学卒業。在学中の1995年に「ミナ ペルホネン」デザイナーの皆川明氏と出会い、ブランド立ち上げスタッフとして参加。2007年から10年間のベルリン生活を経て、2017年に帰国。一男一女の母。絵本は『ぐるぐるちゃん』『ぐるぐるちゃんと ふわふわちゃん』(ともに福音館書店)に続き、3作目。

2018.04.03

  • Twitter
  • Facebook
  • Line

記事の中で紹介した本

関連記事