古くさい? 残酷? 誤解されがちな「昔ばなし」の魅力を語る|「今こそ 昔ばなしを子どもたちに!」@教文館ナルニア国
2024年4月に第一弾が刊行された「世界昔ばなしの旅」セット。『おおきなかぶ』『三びきのこぶた』などの有名なお話ではなく、アジアやアフリカ、南米など、他ではあまり手に取れないさまざまな地域のお話を集めたセットです。月刊絵本「こどものとも」が70周年を迎える2026年に向け、毎年1セットずつ、第三弾までの刊行が予定されています。
このたび、第一弾の刊行を記念して、「こどものとも」編集長の関根によるトークイベントを、教文館ナルニア国(東京・銀座)で開催いたしました。昔話のおもしろさ、魅力についてたっぷり語ったイベントの様子をお届けします。
古くさい? 残酷? 誤解されがちな「昔ばなし」の魅力を語る
「今こそ 昔ばなしを子どもたちに!」@教文館ナルニア国
「こどものとも」では、創刊以来ずっと昔話の絵本を大切にしてきました。『おおきなかぶ』や『三びきのこぶた』『だいくとおにろく』『くわずにょうぼう』『さんまいのおふだ』などが長年楽しまれていますし、今でも毎年1,2冊、ラインナップの中に昔話を入れるようにしています。
昔話は、繰り返しが多いとか、古くさいとか、教訓的だ、残酷だ、などと言われて、大人の方に誤解されがちですが、子どもたち自身は昔話がとても好きなんです。今日は、なぜ昔話を大切にしているのかということと、昔話の絵本がどのように作られてきたのかということをお話しできればと思います。
心の力をはぐくむ、「物語の原型」。
まず昔話は、子どもたちの心の深いところに響いて、心の成長を助けるものだと考えています。子どもたちは、昔話を読んであげるとすごく集中して聞きますよね。今も毎月近くの保育園にお邪魔して、子どもたちがどのようにお話を受け止めるかを拝見しているのですが、やはり昔話はすごく集中して聞いてくれるんです。それも、のめり込んで、心の深いところで聞いているような気がするんですよね。児童文学の大先輩、石井桃子さん、松岡享子さん、瀬田貞二さん、中村柾子さんも同じようなことをおっしゃっています。
子どもたちは本能的に、大きくなりたい、賢くなりたい、強くなりたいという気持ちを持っていますが、昔話はその気持ちを後押ししてくれるようなお話なんです。怖いものに出会っても知恵を使ってやっつけたり、失敗しても3回目はうまくいったりするなど、自分もそうなれるかもしれない、と子どもたちを勇気づける内容が多い。子どもたちは、お話の中にすっぽり入りこんで楽しむので、主人公が困難を乗り越えたり、何かを達成したりするのを、自分のこととして体験していきます。生きていくうえで大切なことが語り継がれてきた昔話を体験することで、子どもたちの心の力がはぐくまれていくのだと思います。
そして、口から口へと語り継がれていく中で生まれた昔話は、耳で聞いたときにイメージが絵になるように表現が磨かれてきました。同じような出来事が3回起きて、3回目でうまくいくという形式や、心理描写や情景描写を排除して、具体的な筋だけを語るなど、様式美を持つ語り口なので、子どもたちはぐっと引き付けられます。内容も、表面的な出来事ではなく、心のドラマであることが多く、「こどものとも」を創刊した松居直も、「物語の原型」だと言っているんですよ。
不安や怖さを受け入れる
昔話を大切にしているもう一つの理由は、昔話に繰り返し触れることによって、楽しみや喜びとともに、悲しみや不安も受け止める力がはぐくまれると考えているからです。子どもたちには、繰り返し楽しむことで自分の中に取り込むという発達プロセスがあります。子どもは自分の好きな絵本が見つかったら、何回も繰り返し読んで欲しがりますよね。大人は、「もっとたくさんの世界を見てほしいな」などと考えてしまいがちですが、子どもの心の発達のプロセスは、大人とは違うんだということを理解することが大事だと思います。子どもは何度も繰り返し読んでもらうことで、言葉や絵など、お話に入っているエッセンスを全部吸収しているんです。空想と現実を行ったり来たりする発達段階だからこそできることです。
例えば、保育園に行くと「怖い話して!」と子どもたちによく言われるんですが、お話が終わると「全然怖くなかった! 大丈夫だった」と誇らしげに言うんです。子どもたちは、怖いけど大丈夫だった、不安だったけど乗り越えた、という経験を欲しがっているのかなと思います。不安を乗り越えるという意味で言うと、震災後に石巻の保育園にうかがった時、子どもたちが「津波ごっこ」をしていると聞いたんです。最初は少しショックだったんですが、先ほどの「怖い話」と同じように、繰り返し遊びとして楽しむことで、不安を受け入れようとしているのかなとも思いました。大人と子どもの不安の受けとめ方は、大きく違うんでしょうね。
昔話には、怖いものや困難に出会うお話が多いですが、それを安心できる大人に語ってもらい、繰り返し楽しむことによって、子どもたちは不安や怖さも受け入れ、心の耐性がはぐくまれていく。そのような体験が、今の時代特に必要ではないかなと思っています。
世界の昔話を絵本にする意味
実は、昔話を絵本にするというのはすごく難しいことです。昔話は「語り」が基本なので、語られるのが一番いいのですが、時代も変わって、子どもたちが耳で聞いただけでは分からないものも増えてきました。例えば、家の「はり」や「いろり」がどういうものか分からなかったり、一寸法師の「法師」を「帽子」と思ってしまったり。そういう時は絵の助けがあると、子どもたちもお話の世界に入りやすくなります。ただ、昔話は不思議なことが起こるものが多いので、絵にしていくと矛盾が出てきてしまって、絵にするのが本当に難しいんです。あとは、昔話はその地域の風土と深く結びついているので、当時の服や習慣などを調べ抜いて描く必要があります。その国や地域に精通している方や、ゆかりのある方が描いてくださるのが一番いいんですよ。
そもそも、松居が「こどものとも」で世界の昔話を絵本にしようと思ったのは、敗戦の時に「自分はアジアの国のことを何も知らなかった」という反省があったからだそうです。絵本を通して国際交流、異文化理解をすすめることが、平和への第一歩。そう考えて、アジア各地につながりを作りながら、昔話を絵本にして紹介してきました。今も、文化の違いをうまく認め合えたら、もっと違う世界になるのではと思いながら、1冊1冊チャレンジしつつ、世界の昔話絵本を刊行しています。
(まとめ・宣伝課)
2024.06.27
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