あのねエッセイ

今月の新刊エッセイ|junaidaさん『の』

今回ご紹介するのは、字のない絵本『Michi』の作者・junaidaさんの新作『の』。ことばとことばをつなぐ不思議な日本語「の」をテーマにした、美しい絵本です。エッセイでは、junaidaさんが、絵本が生まれるまでのこと、そして、ことばとことばの間に隠れている「の」の魅力について語ってくださいました。

「の」は不思議

junaida


  「の」は不思議なことばです。もっと言うならば、とても不思議な日本語です。
どんな外国語でも、「の」という日本語を、そのまま一言で置き換えることのできる言語は、どこにも存在しないのだそうです。
それくらい、この「の」というたった一言、たった一文字には、日本語ならではのたくさんの不思議が詰まっている、そのことを知ったところから、この絵本のアイデアが、わあっと生まれ出しました。
僕は今までことばのない、絵だけの絵本を作ってきました。
けれどもこの絵本は「の」ということばがすべての源です。ことばから絵本を考えるのは初めてでしたが、「の」に導かれるようにして、ことば遊びのように楽しみながら構想を練っていきました。
始まりの文章「わたしの」はすぐに思い浮かびました。


次のページには「お気に入りのコートの」と続きます。これは〈わたし〉が赤いコートを着ている絵的なイメージがあったことから導かれた文章です。こんな風に、絵のイメージも文章と絡み合いながら、この物語は進みはじめました。
進みはじめたらあとは頭の中で自問自答を繰り返していきます。
コートにはポケットがあるな、そこには何が入っているのかな、普通だったらポケットに入るわけないようなおかしなものがいい、よし、お城だ。
というわけで、続く文章は「ポケットの中のお城の」となりました。こんな風に、ことば遊び、絵遊びのようにして、イメージは連鎖しながらムクムクと膨らんでいきました。

ポケットの中にあるお城には王様が住んでいて、王様のベッドのシーツは突然大海原になり、その海をこえて船乗りたちはふるさとの島へ帰り、灯台の上にあるサーカス小屋には人気者のピエロが登場、場面は目まぐるしく変化し続け、小人や森の図書館や赤鬼の兄弟や音楽家のレッサーパンダ、銀河の果てから深海や鳩時計の中、巨人の絵描きにパイロットのお姫さまに101歳の猫、などなどなど、あぁもう、こうやって書くと何のことだかサッパリ意味不明な物語ですが、「の」の魔法にかかればちゃんとすべてが繋がったひとつの物語になっていくのが本当に不思議です。


「の」はバトンのようなことばです。それは、物だったり、時間だったり、感情だったり、なんだって繋げていきます。
そうやって「の」がどんどんと連なっていくことで、絵や物語が自分でも思いもかけなかった世界を生み出し、動き出し、躍動していきました。まさに「の」で遊び、「の」に導かれて生まれてきた絵本なのです。
そして「の」のことば遊びは、じつは誰でも簡単に楽しんでもらうことができます。ぜひ試しに自分でも気軽にやってみてください。家族や友人とかわりばんこに「の」でことばを繋げてみるのも面白いです。きっと思いがけないようなデタラメで素晴らしくヘンテコな世界がたくさん生まれてきます。
さっき、「の」はバトンのようなことばだと言いました。この本をきっかけに、「の」で遊ぶ楽しさというバトンが読者のみなさんの手に渡り、そのバトンをいつか誰かにつないでくれたとき、この絵本は本当の意味で完成するのかもしれません。


junaida(じゅないだ)
1978年生まれ。画家。2010年、京都・荒神口にHedgehog Books and Galleryを立ち上げる。『HOME』(サンリード)で、ボローニャ国際絵本原画展2015入選。三越クリスマス催事、ほぼ日手帳2017への作品提供や、西武グループによるSEIBU PRINCE CLUBのメインビジュアルを担当。近著に、『THE ENDLESS WITH THE BEGINNINGLESS』『LAPIS・MOTION IN THE SILENCE』(ともにHedgehog Books)、宮澤賢治の世界を描いた『IHATOVO』シリーズ(サンリード)、『Michi』(福音館書店)、装画・挿絵の仕事に『せなか町から、ずっと』(斉藤倫 作/福音館書店)などがある。

◎junaidaさんの作品をご紹介した特設サイト「junaida 絵本地図」はこちらから!

2019.11.28

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