落ち葉がこんなに美しく、おもしろいなんて。『落ち葉』
『落ち葉』
芸術の秋、スポーツの秋、食欲の秋。みなさんが、「秋」を感じるのはどんなときですか? 街路や公園で、色づき紅葉する樹々を目にするときに、秋を感じるという方も多いのではないでしょうか。
しかし、そんな美しく紅葉した樹々に目をとめることがあっても、秋が深まり、木の枝から離れて地上に落ちた“落ち葉”を手にとってじっくり見つめる人は、そう多くはないかもしれません。
本作『落ち葉』は、『くだもの』などで知られる絵本作家の平山和子さんが文と絵を描き、『ぽとんぽとんはなんのおと』(神沢利子 文)などの絵を描いた平山英三さんが写真と構成を担当された絵本です。
ある日のこと、林のなかで、一枚の落ち葉が平山和子さんの目にとまりました。褐色に紅葉した一面の落ち葉の中に、わずかに緑色の部分が残る、なんとも美しい落ち葉があり、平山さんは「どうかして、この美しいすがたを残しておけないものだろうか」と思います。
平山さんは、その葉を大切に持ち帰り、描いてみることにしました。画室の机のうえに置いた落ち葉はますます美しく見え、わずかに残った緑色の部分は、まるで「夏のさざめきがかすかに息づいている」ように感じたといいます。
そんな運命的な落ち葉との出会い以来、20年近く、平山さんは、さまざまな意匠をこらした落ち葉をひたすら見つめ、水彩絵具を用いて丹念に一枚一枚描きつづけました。この絵本は、そんな平山さんの描いた落ち葉を収めたものです。
緑と茶色が半々になったイタヤカエデの落ち葉、7つに分かれた葉先がそれぞれ1つ、2つ、3つ、4つ、5つと紅葉したモミジの落ち葉。
ヤマブドウやイタヤカエデの落ち葉は、虫に食べられ、人や動物の顔の形にみえるものも。
どれひとつとして同じものがない落ち葉たちの絵は、見ていてうっとりするほどの美しさです。
なかでも圧巻なのは、平山さんがそんな落ち葉たちを「なんと美しいのだろう。このとおりに描けるだろうか」「この美しさは、とても描きあらわすことができない」と揺れ動きながら描いているときの感覚について書かれた文章。
……そうして描いていると、いつのまにか、小さな起伏が、山々のつらなりや、丘や森のように感じられたりします。ときには、湖だったりします。/風の音や、なつかしい音楽がかすかに聞こえます。/私は、しらべを聞きながら歩いたり、立ちどまって景色を眺めたりしています。/ふとわれにかえって筆をおくと、どこか遠いところへ行ってきたような気分になっています。……
落ち葉を描きながら、まるでその落ち葉の中に入り込んでしまったような平山さんの絵本。本を閉じたら、まわりの落ち葉が、一変して見えてきますよ。
ーーーーー
今月11/30(土)まで、長野県・黒姫の「童話の森ギャラリー」で、平山英三さん平山和子さんの追悼展が開催されています。『落ち葉』の原画のほか、平山和子さんの『たんぽぽ』や『くだもの』などの一部原画、平山英三さんの『少年動物誌』のさし絵原画やスケッチなどが展示されている貴重な展覧会です。
「平山英三・平山和子 追悼展~自然を見つめた二人の画家~」
会期:2024年9月27日(金) - 11月30日(土)
会場:童話の森ギャラリー
〒389-1303 長野県上水内郡信濃町野尻3807-30
開館時間:AM 9:00~PM 5:00(最終入館時間 PM 4:30)
入館料〈個人〉:一般:800円/小中学生:500円(童話館&ギャラリー共通)
休館日など詳細は、HPでご確認ください。
https://douwakan.com/gallery
担当F 先日、(上記の)黒姫での追悼展に行ってきました。『落ち葉』の原画の美しさに息をのみ、しばし時間を忘れて見入りました。行きはタクシーで、帰りは黒姫駅まで30~40分かけて歩いて戻ってきたのですが、紅葉する林の中を通り抜けて、まるで夢のような時間でした。
2024.11.15