学校図書館だより

【エッセイ】私と図書館~子どもと本の幸せな出会いを願って~

私と図書館~子どもと本の幸せな出会いを願って~

笹岡 智子

中学卒業まで、関東近郊の田舎のまちで育ちました。近所には漫画や雑誌ばかりの書店が1軒のみ、公共図書館に行くには30分以上バスを乗り継がなければなりませんでした。そんなわけで、本と出会える場は、もっぱら小学校の図書室でした。
通っていた小学校では、昼休みも放課後も、好きなだけ図書室を利用することができました。図書室には、M先生というとても素敵な司書の先生がいて、図書の授業でM先生は必ずケーキの形をしたろうそくに火をつけ、「お話」をしてくれました。ろうそくに火が灯っている間は、いつもの図書室が、どこか別の場所になったようでワクワクしました。その分、火が消えた後には、毎回少し寂しい気持ちになったのをよく覚えています。
M先生は図書室に来る子の名前はもちろん、前に借りた本や、好きな本をよく覚えていてくれました。私が「ピーターラビット」のシリーズが好きだと話したときに、これもきっと気に入るよ、とアトリーの「グレー・ラビット」のシリーズを教えてくれました。また、十二星座にまつわる伝説にはまっていたときには、天文についてのノンフィクションの本もすすめてくれました。理系科目は苦手だったので、自分からは絶対に手を出さなかったと思いますが、読んでみたら、宇宙の始まりの不思議や、途方もない規模にすっかり心を奪われ、夢中で読みました。
何かうまくいかないことがあったときは、放課後ぎりぎりまで図書室で過ごしていました。並んだ本の背表紙を眺めながら、これはどんな本だろう、いつか読んでみたいな、と考えながら歩きまわっているうちに気持ちが晴れました。小学校の図書室は、私にとって落ち着ける居場所だったのだと思います。
書店や公共図書館などでの勤務を経たのち、ご縁をいただき東京子ども図書館の職員として働くことになりました。やってきた子どもたちに声をかけ、返却本を受け取りながら言葉を交わし、一緒に本を読み、次に借りる本に迷っている子にはさりげなく本をすすめる……。ここでは、ひとりひとりの子どもに寄り添ったサービスが当たり前のこととして行われています。新米職員の私は、必死で本を読み、またお話を覚える日々です。それでも、ろうそくに火を灯したときの、子どもたちのあの期待に満ちたきらきらした目に見つめられると、大変さも吹き飛びます。また、1年目に小学校に訪問したときのことも忘れられません。以前の勤務先では「古いから」と閉架に入れられていた『寺町三丁目十一番地』(渡辺茂男 著)を、ぜひ読んでもらいたいと思って紹介したところ、「読みたい」「借りたい」という感想がたくさん届いたのです。子どもたちに本を手渡す仕事の大切さをあらためて実感しました。
当館は今年で設立50周年を迎えました。子どもと本の幸せな出会いを願って活動してきた当館に、たくさんの方たちが共感し、支えてくださっているのを日々感じます。志を同じくする人たちがそれぞれの場所で、子どもたちが本と出会い、幸せな子ども時代、ひいては幸せな一生を送ることができるよう頑張っているのだと思うと、身が引き締まります。この気持ちを胸に、目の前の子どもたちと向き合っていきたいと思います。

笹岡智子
児童図書館員/東京子ども図書館

2024.07.11

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