あのねエッセイ

今月の新刊エッセイ|きもとももこさん『クニョニョのぼうけん』

可愛いうずらちゃんとひよこちゃんがかくれんぼ遊びをする、大人気の絵さがし絵本『うずらちゃんのかくれんぼ』が2024年2月に刊行30周年を迎えました。節目となる今年、新刊『クニョニョのぼうけん』が刊行される、作者のきもとももこさんにエッセイを綴ってもらいました。

30年後の絵本

きもと ももこ

『うずらちゃんのかくれんぼ』を出版してから30年経ったことを、少し前に福音館の人に教えてもらいました。30年経ったのか! と感無量になりながら、初めて作ったにも関わらず、30年間書店に置いてもらえる絵本を作れたことを心から嬉しく思いました。この30年間、編集者さんだけでなく、営業さん、印刷所の方々、本屋さんなど多くの人たちが私の絵本に関わってくださり、また、多くの人が読んでくださいました。そういう人たちがいたからこそ、私は絵本を作り続けることができたと思っています。本当にありがとうございます。

初めての絵本作りで、まだ20代だった私はとても苦労していたことを思い出します。当時、どうしたら良い絵本が作れるのかを必死に考えてラフスケッチを描いていました。でも、どうしても絵本を出したくて仕方がなかったのに、どうやって作ったら良いのか? なんてことは、よくわかっていませんでした。それを時間をかけて何人もの人たちが教えてくれたおかげで、私は今、とても楽しく絵本を作れるようになったのです。

今回の絵本『クニョニョのぼうけん』で、なぜ「宇宙」をテーマにしたのかというと、宇宙のことを全部わかっている人はどこにもいないので「自分の好きなものを好きなように描けるかな」という気持ちからです。自由に絵を描きたくてこのテーマを選びました。そして、宇宙をテーマにするのなら対象年齢はいつもより少し上げて、読み物としてたっぷり楽しめる長さにしようということで、68ページという長編絵本になりました。私はそこに、頭の中の引き出しにある色々なものを引きずりだして詰め込んで楽しむことにしたのです。

68ページの絵本というのはそう多くはありませんが、童話ではなく、表紙から裏表紙までオールカラーの絵を楽しめる長編絵本を作ることは自分にとってちょっとした挑戦で、企画の最初の段階では長いページを使った飽きのこない構成を考えるのに四苦八苦していました。でも、描き進めるうちにどんどん楽しく、ワクワクしてきて自由に好きな絵を描くことができました。絵本を作る時、ラフスケッチを描き終えると、絵の具を使って原画を描く作業に入りますが、この作業はどの絵本を作る時も本当に楽しいものなのです。でも、今回はいつもよりも、もっと楽しく絵を描けた様な気がします。この絵本を読んでくださった人に、私が絵を描いている時に感じた楽しさをお伝えすることができたとしたら、それはとてもとても嬉しいです。

この『クニョニョのぼうけん』の中には王様が出てきますが、この王様と似たような人物が、実は福音館に初めて来た時に持ってきた『うずらちゃんのかくれんぼ』の原案にも出てきています。結局「一発退場」で没になったこの人物を、私は心の中で忘れませんでした。30年の月日を経て今回絵本に登場させることができたことは、私の小さな喜びになっています。

この絵本は、5年もの時間をかけて作りました。時間をかけながら好きなものを自由に詰め込んだこの本を出版できたことは、自分にとって本当に幸せなことなのだと心から感じています。


きもとももこ
1966年東京生まれ。武蔵野美術大学視覚伝達デザイン学科卒業。絵本に『うずらちゃんのかくれんぼ』『うずらちゃんのたからもの』『ピーのおはなし』『てぶくろチンクタンク』『かえるくんのおさんぽ』(以上福音館書店)『つるちゃんとクネクネのやまのぼり』(文溪堂)がある。

 

2024.06.04

  • Twitter
  • Facebook
  • Line

記事の中で紹介した本

関連記事