あのねエッセイ

今月の新刊エッセイ|たるいしまこさん『しょうぼうじどうしゃのあかいねじ』

宅配車、パトカー、救急車など、子どもたちが大好きな「はたらく車」。そのなかでも、特にかっこよく、メカニックな魅力も兼ね備えた花形の車といえば、消防自動車ではないでしょうか。今月の新刊『しょうぼうじどうしゃの あかい ねじ』は、いろいろな部品を組み合わせて作られる消防自動車のできるまでを描きます。作者のたるいしまこさんに、制作当時のエピソードをまじえたエッセイを寄せていただきました。

しょうぼうじどうしゃができるまで

たるいし まこ


子どもたちが大好きな消防自動車。サイレンを鳴らして火事や災害時に活躍する姿は、働く車の中でも圧倒的な存在感です。どんな小さな町にも消防署があって、そこにはいつでも出動できるようにピカピカの消防自動車が並んでいますね。

では、消防自動車はいったいどこで作っているのか、知っていますか?

大手の自動車メーカーが作っている? いえいえ、そうではありません。じつは消防自動車だけを作っている会社があるのです。それを知ったのは、私の住んでいる地域のお茶会でのことでした。お母さんの一人が言ったのです。

「うちの人、消防自動車つくってるのよ」
「え? 消防自動車を 」

消防自動車だけを作っている……そんな会社があるなんて!

私はそのお母さんに頼んで、消防自動車ができるまでを見学させてもらうことにしました。一般の自動車はオートメーションで大量生産できますが、消防自動車は、県や市、町などから注文を受けて、一台一台を手作りで完成させるのだそうです。注文はさまざまなので、すべてがオーダーメイド。だから同じ形のものは一台もないんですって! すごいでしょう?

私は目覚まし時計や、古くなった母の腕時計を分解したりする子どもだったので、カラフルでいろんな仕掛けがある消防自動車にはとても興味がありました。ですから初めて工場見学に行ったときは、絵本の主人公のひかるちゃんみたいにわくわくした気持ちでいっぱいでした。

工場の中には作りかけの消防自動車があっちにもこっちにも。設計図を片手にまるで大きなプラモデルを組み立てるように作業をする人たち。ぐるぐる回るライトや、いろんな形のメーター、ハンドル、レバー……どれもキラキラして、なんと美しいのでしょう!

たくさん装備を乗せているガッチリ大きな消防自動車もあれば、絵本に登場するようなかわいい消防自動車もあります。

一台の車をゼロから作り上げるので、小さなねじ一つにも細心の注意を払います。物作りの現場は、思っていたよりもゆったりとして静かなものでした。そんな場所から、何台もの消防自動車が完成して、それぞれの市に町に納車されて行きます。一週間前に写真をいっぱい撮らせてもらった消防自動車が今日はもう納車されて姿がなく、さみしい気持ちになったりもしました。私は何日も工場に通いました。それはそれは楽しい日々でした。

さて、しっかり組み立てて放水などの検査を終えた消防自動車は、またバラバラに分解されます。分解された部品は、きれいに並べられ一つ一つ赤く塗装されるのです。もちろん小さなねじも全部。車体は別の部屋で一気に塗装します。じゅうぶん乾いたら、もう一度組み立てて、やっと完成。ピカピカのとびっきりの消防自動車の誕生です!

皆さんも主人公のひかるちゃんと一緒にあかいねじの冒険を楽しんでください。女の子だって消防自動車が大好きなんですよ!


たるいしまこ
神奈川県茅ヶ崎市生まれ。多摩美術大学卒業。絵本に『サンタさんからきたてがみ』『わたしのかさは そらのいろ』「もりのおくりもの」(3冊セット)『あつい あつい』『あっくんとデコやしき』『まっくらけーの けっけさん』(「こどものとも年中向き」2021年11月号)『ねこちゃん』(「こどものとも0.1.2.」2023年2月号/以上、福音館書店)など多数。児童書も『かわいいこねこをもらってください』(ポプラ社)「ぞくぞく村のおばけ」シリーズ、「しばいぬチャイロのおはなし」シリーズ(ともにあかね書房)など。

2024.04.03

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