作者のことば

作者のことば 堀川真『たぶん、なんとかなるでしょう。続』

絵本作家・堀川真さんが描く、人気子育てコミックエッセイ『たぶん、なんとかなるでしょう。』の約7年ぶり待望の続編にして、完結編。その名も、『たぶん、なんとかなるでしょう。続』。小学生と園児、元気いっぱいの兄弟とともに暮らす、北海道在住4人家族のリアルを、前作につづき、堀川さんが温かな父のまなざしで描いています。刊行を記念して、本のあとがきより、堀川さんの言葉をお届けします。

「あのころが一番楽しかったなあ」と思うまで

堀川 真

近所のスーパーや路上で小さな子どもを見かけると、持ち上げたいなあと思います。軽くありながら人としてのすべてが詰まったあの重さをもう一度確かめたいと思うからです。やりませんけど。

それから、楽しそうな暮らしがあるんだろうなあと思います。こっぴどく困らされたとしても、あとで思えば楽しいことに違いない。

本というのは不思議なものですね。開くといつも同じ世界がそこにある。たとえ世の中にどんなことが起ころうとも、本の中ではいつも誰かがくだものを手渡してくれたり、カステラを分けあったりしている。この本は私が描いたものですが、私も妻もずっと子育ての真っ最中です。子どもたちは新しい人のまま、私と妻も永遠に右往左往しています。あの日々はどんどん遠くなっているというのに。

いつだったか母が「あのころが一番楽しかったなあ」とつぶやいたことがありました。本書の子育てと同じ頃あいです。私はまだまだ子育て中で、一番楽しかった頃を語るにはもう少し時間がかかりそうです。「あのころはひどかったなあ」と言いながら笑っています。「こんなだったぞ」と子どもたちに話せば、「それはひどい」と笑ってくれます。なんなんでしょうね、「お前の話だよ」と言いながら、また笑ってしまうのは。

子どもにとっての毎日は、人生初の連続です。だから「こう思うんだ」を全力でぶつけてきた。そして、そんなつもりのない言動にはっとしたり、笑ったりした。今それを思い出してくすくすと笑うとき、自分はそんな小さな物語に支えられているのだと感じます。人を支えるのには小さな物語で十分なのでしょう。そして、いいも悪いも遠ざかるほどに一度きりのことだったのだなと今しみじみと思うのです。

この子たち、どんな大人になるのかなあと思います。でも、どんな大人になったとしてもそれでいい気がします。ただ笑いあえた日々をふみしめて、行き着くところに行くのでしょうから。

(『たぶん、なんとかなるでしょう。続』あとがきより)


堀川真(ほりかわまこと) 1964年、北海道紋別生まれ。絵本作家。農学、美術、木工を学び、その後、創作活動に入る。絵本や読み物の絵を描くほか、子ども向けのワークショップにも携わる。名寄市立大学社会保育学科教授。著書に『あかいじどうしゃ よんまるさん』『たぶん、なんとかなるでしょう。』(共に福音館書店)、『私の名前は宗谷本線』(荒尾美知子文、あすなろ書房)、『おべんとうさんいただきます』(教育画劇)などがある。『北海道わくわく地図えほん』(北海道新聞社)、『いのちのいれもの』(小菅正夫文、サンマーク出版)、『もりのやきゅうちーむ ふぁいたーず』(北海道日本ハムファイターズ選手会作、北海道新聞社)でけんぶち絵本の里大賞、びばからす賞を3度受賞。月刊誌「母の友」にて「つくろう あそぼう アソベル堂」を連載中(2024年3月現在)。


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2024.03.13

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