こどものとも800号記念・絵本誕生のひみつ

めっきらもっきら どおんどんが生まれた日/長谷川摂子さんインタビュー

月刊絵本「こどものとも」は、2022年11月号で800号を迎えました。これを記念して、今年度、本誌の折り込み付録では、過去の記事から、数々のロングセラー絵本の「誕生のひみつ」について、作者の方たちが語ったインタビュー記事を再録してお届けしています。

ふくふく本棚でも、毎月、「こどものとも800号記念・絵本誕生のひみつ」と題して、折り込み付録掲載のインタビュー記事を公開してまいります。第9回は、「めっきらもっきら どおんどんが生まれた日」。長谷川摂子さんのインタビューを「こどものとも年中向き」2002年12月号折り込み付録から再録してお届けいたします。

「母親としてはかなりハメをはずして、子どもと遊んでいたんです」

――どんなきっかけでこのお話が生まれたのか、お聞きしました。

「子どもがふすまを破いて、その穴が大きくなる。押し入れからおふとんを出すと、まるでほら穴のようになって、来た人はそのほら穴を見て驚いている(笑)。子どもが穴から押し入れに入るのが好きで、ある時、私も一緒に入って。後ろの壁に身を寄せて小さくなっていたら、壁が抜けてずーっと後ろまで暗闇があるような、そういう錯覚があって。なんだかこわいねって、子どもと一緒にこわい、こわいごっこのようなことをしていたんです。

毎日、夜寝る前に『お話ひとつと絵本2冊』というのがコースでした。お話も、4歳半くらいになると、『新しい話、新しい話』ってねだりはじめる。私はすぐに種がつきて、何でもいいから苦しまぎれに話を作っちゃう、ということをしてた。

だいたい、そういう時には話の腰が折れて最後はめちゃくちゃで、『へんなの』というのでおしまいという感じでしたが、ある日『押し入れの暗闇の中からおばけが飛んでくる』という話をしたんです。3人組のおばけと遊ぶ話。次の日、私は筋もよく覚えていないのに、子どもが『ゆうべの話をして』と言うので、『えっ』という感じ。もう一度お話をたぐろうとしたら、子どもの方が、『こうだったでしょ』と、ちゃんと覚えていてくれて。

そんなにおもしろいのかな? と思ってね。何か文章にしてみようかと。その頃よく楽しんでいた『おしいれのぼうけん』という本とだぶるのはいやだな、と思いまして、舞台を変えようと考えはじめた。そうしたらやっぱり、自分が生まれ育って遊んだ場所というのが浮かぶんですよね。

私は神社でさんざん遊んだんです。家のななめ前に神社があって、ごはんどきになるまでずーっと遊んでて。母や姉たちが『ごはんだよ』と呼びに来て、『はーい』って走って帰る。神社にうろのある木が立っていて。その木が気持ち悪くてね。神社とうろ、というのが私の心の中にずーっとあったから、このお話を作る時に、場面設定は自然とここに。

そして、3人組のおばけに個性を持たせようと、まず名前を考えました。私は柳田国男の作品が好きで、『分類児童語彙』(国書刊行会)というとってもおもしろい本があるんですが、『おたからまんちん』と『しっかかもっかか』は、その本からとったんです。このきつねの形のおばけは、ちがう名前にしていたんですけど、ふりやさんの、この絵ができてきた時に、何かすごくおもしろくて、そのイメージから『もんもんびゃっこ』にしました。

『めっきらもっきら……』という歌ですけど。子どもを保育園に送り迎えする時に、自転車の後ろに乗せて、せいぜい7、8分なんですけど、ふたり、掛け合いで歌ってね。歌うのが大きな楽しみだった。それで、全く意味がなくて音だけでおもしろい歌がないかな、と思って自分で作りたくなって。奈良に新薬師寺というお寺があって、そこに『十二神将』という仏像があるんです。仏様を守る十二の大将なんですが、それぞれアンチラ大将とかバサラ大将とか名前がついていて。その中に『迷企羅(メキラ)大将』というのがいる。わたしは『迷企羅(メキラ)大将、好きだなあ』と思ってね、歌のきっかけをそこからもらったんです。


それ以来、私、お話の呪文の言葉とか、そういうものを考え出せない時はね、空海・最澄あたりからたぐることにしてるんです。家に『岩波思想体系』っていう分厚い本があって、それを取り出してパラパラパラとめくりながら、『何かおもしろい言葉はないかいな』って(笑)。私の子どもの頃、祖父がお薬師様を深く信じていて、仏壇の前で『おんころころせんだりまたおきそーわーかー』と、何十回も言うんです。お薬師様の真言というものなんですが、私はもう耳について離れないわけなんです。覚えやすい、何十回繰り返しても心地よい、そういうリズムのある言葉が、真言になっていったんですね。ですから私は、おまじないを考える時には、まずお尋ねするのは空海様に(笑)。意味のわからない言葉というのは、音でもってせまる。異界へ通ずる言葉だと思います」

――おばけと遊ぶ、というのもおもしろいですね。

「おばけって怖いものだけど、自分の力でコントロールして友だちになれたら何ていいんだろう、という気持ち、子どもの中にはすごくあると思います。子どもって、怖い話をすると、いきなり手を重ねて『ビーッ』と言ったりする。怖さを何とか克服しようとしてる。強くなりたいのよね。おばけとかそういう怖いもので自分を試しながら強くなる」

――お話を作るのは、子どもの頃から好きだったのでしょうか?

「本はおそろしく好きな子でした。お話を自分で作ってはいなかったけれど、小学校の高学年の頃に、弟や妹を寝かす、ということをしばらくやっていました。その時に、おもしろおかしいほらふき話のようなものを、弟や妹がとても喜んでくれた記憶があります。嘘っておもしろいですよね。ある時期子どもが、『そんな話、嘘でしょう』ってよく言うから、『嘘だからいいんだよ』と。そうしたら子どもが学校で作文を書いてきて、『お母さんの料理』というテーマ。読んでみたら、『お母さんはカレーを作ってくれました。お母さんのカレーは、ニンジンはニンジンで集めてニンジン島という旗を立てます。お肉はお肉でお肉島という旗を立てます。お母さんのカレーはカレーの海です』って。私、びっくりしちゃってね。そんなことしたことない。先生はすっかりだまされて、『ゆうくんのカレーは楽しいカレーですね。今度、先生も作ってみたい』と書いてあった。私は腹をかかえて笑ってしまって。

自分で読む時も、本というものは楽しいものとして読んできた。教養を高めるものでなく。玉石混淆で、その辺にあれば何でも読んでいたから。貸本屋から借りて、大衆娯楽小説もずいぶん読みました。なぜか田舎の町では映画を子どもが勝手に観ることは禁止されていたんです。それで『なぜ本は禁止しないのだろうか?』と思って。中学生になって『眠狂四郎』なんか読んだら、かなりエロチックな場面が出てきてぎょっとして、『本は何でいいの?』って(笑)。本というものを教養主義から出発せず、『おもしろい、楽しい』というのが自分の基本にあるのは、子どもの本を作る上では悪くないな、よかったな、と思っています」

*次回は「ちいさなねこが生まれた日/石井桃子さん・横内襄さんインタビュー」。
 11月10日頃公開予定です。どうぞお楽しみに。

こどものとも800号記念・絵本誕生のひみつ
第8回「ぞうくんのさんぽが生まれた日/なかのひろたかさんインタビュー」はこちらからどうぞ!
第7回「しょうぼうじどうしゃ じぷたが生まれた日②/山本忠敬さんインタビュー」はこちらからどうぞ!
第6回「しょうぼうじどうしゃ じぷたが生まれた日①/渡辺茂男さんインタビュー」はこちらからどうぞ!
第5回「かばくんが生まれた日/岸田衿子さんインタビュー」はこちらからどうぞ!
第4回「いそがしいよるが生まれた日/さとうわきこさんインタビュー」はこちらからどうぞ!
第3回「だるまちゃんとてんぐちゃんが生まれた日/加古里子さんインタビュー」はこちらからどうぞ!
第2回「ぐりとぐらが生まれた日②/山脇百合子さんインタビュー」はこちらからどうぞ!
第1回「ぐりとぐらが生まれた日①/中川李枝子さんインタビュー」はこちらからどうぞ!

2022.10.11

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