こどものとも800号記念・絵本誕生のひみつ

ぞうくんのさんぽが生まれた日/なかのひろたかさんインタビュー

月刊絵本「こどものとも」は、2022年11月号で800号を迎えます。これを記念して、今年度、本誌の折り込み付録では、過去の記事から、数々のロングセラー絵本の「誕生のひみつ」について、作者の方たちが語ったインタビュー記事を再録してお届けしています。

ふくふく本棚でも、毎月、「こどものとも800号記念・絵本誕生のひみつ」と題して、折り込み付録掲載のインタビュー記事を公開してまいります。第8回は、「ぞうくんのさんぽが生まれた日」。なかのひろたかさんのインタビューを「こどものとも年中向き」2000年9月号折り込み付録から再録してお届けいたします。

「僕が今まで作った中で、一番簡単に話を考えついた絵本です」

――『ぞうくんのさんぽ』は、どのようにしてできあがったのか? という質問に対して、答えてくださいました。

「本当に簡単だった。松居直さん(註:当時の「こどものとも」編集長)に言わせると『それがいいんだ』って言うんだけどね。『発想から展開から結末までが、実に単純に流れた時はいい』と。実際にそうだね。この話を作る時、苦労した記憶がない。

『親亀の背中に子亀をのせて、子亀の……』って早口言葉がちょうどはやった時で。あれは明治にも一回はやったらしいんだけど。友だちが口ずさんでるから、『何だそれ?』って聞いたら、『早口言葉で、今はやってんだ』『へえー』ってんで。それをベースにして作った話なんです。登場する動物たちも、のっけて形のつくものがいいな、としか考えなかったんですよ、当時は。ぞうよりも小さくて、のっけてすわりのいいものって言ったら、かばしかいない。で、かばの上はわにで。最後はちょっとしたものでいいんだ、こけるのは、少しの重さでつぶれていいんだから、というのでかめにしたんだけど、後で考えたら、全部、水の中に入る動物なんだよね。だから最後に池の中に落ちたってのは、つじつま合うわけよ」

――最初の発行から長い年月がたっていますが、全く古くなっていないですね。

「実に奇妙だと思うんだけどね、自分で。古く見えないってのは何だろうな、って。これが、新しく描かれた絵本だと思いこんじゃう人もいるっていうけど。

この場合は、デフォルメがうまくいったんじゃないかな。考えてみたら、これで『かば』はないよね。口半分で胴半分、なんてかば、いないもの(笑)。でも、この絵を見たら、他の動物の名前は言わない、やっぱりかばって言うでしょう。

この絵を描いた時、他の描き方も試したりして、初めはわにもグリーンで描いたんだけど、そうしたら、なすびの上に大福がのっかって、その上に唐辛子がのってる、そうにしか見えなくて、自分で描いてて笑っちゃった。

絵を描く時に、イメージ・印象だけで描いちゃう人と、形を上手に描きたい人、というのがいる。僕は、形を描かなきゃ気がすまない人間らしいんだね。描いている絵に対して、やれ『デッサンがくるってる』とか、自分の頭の中で言いだすわけ。『目に見える』ことに絵の技術が追いついていかない。技術よりも目の方がはるかに先にいっちゃってる。『あ、ここおかしい、ここも……』と直して、自分が納得した時には形になってる。そういう描き方がいやだな、と思っても、いざ描く時には同じ事を繰り返しちゃう。

本来、絵はイメージを描けばいい。うまくなくていい、形を描かなくてもいい。ピカソがそれを教えてくれたわけです。二十歳で描けない物がないほど上手だった人が、その後の何十年かかけて下手に描いて、最終的には子どもにもどるんだから」

――なかのさんは、形を描かなきゃ気がすまない? 『ぞうくんのさんぽ』は、むしろイメージを描いているように思えますが。


「そう、イメージを描いてるんだね(笑)。『ぞうくんのさんぽ』に関してだけは。『こうでなきゃ、かばじゃないよ。僕のかばって、こういうかばだ』というのを描いてる。この木だって、自分の頭の中にある木だもん。何だよ、この木(笑)。でも、この木についても、読者からクレームつかないもんね。僕の中にある木であって、動物たちだったんだね。この頃はまだ、ぼくも絵描きだったから(笑)」

――子どもの頃から、絵を描くのは好きだったんですか?

「漫画は好きで、よくまねして描いていたけど、写生をするとだめだった。写生大会が盛んな小学校だったんだけど、僕は、下描きをして、色をぬり始めるとすぐ飽きちゃう。それで木なんか登ってるとね、他の生徒が言いつけに行くんだ。『自分が描いている木に中野くんが登ってる。何とかしてくれ』って(笑)。気がついたら先生が下で、えらい怒ってる。『おめえ、何やってんだ!』って。最後まで絵を描いたことはなかった。完成させられない子だったんじゃないかな。

漫画は自分で描いて投稿したこともあったけど。どうもね、ストーリーがうまく作れない。自分が話を考えつくと、こういうこと(『ぞうくんのさんぽ』)になっちゃうんだね。僕の考える話ってのは、こういうことなんだ。

筋道がきちっと通っていく、そういうことを絵本でやりたい。

『1+1=2』が、どうして正しいかといえば、誰にも否定できないから、だそうで。きちんと理屈が通っていれば、否定されない限り正しいんだ、ということ。そういう意味で、『おおきなかぶ』は、本当に優れた絵本だと思う。きちんと筋道が通ってる。

そしてひとつだけ嘘をつく。『ぞうくんのさんぽ』でも、ひとつ嘘をついてる。『かばは、どうやってぞうの上にのったんだ』って(笑)」

――その嘘が気にならないくらい、ストーリーが単純で力強いんですね。

「松居さん(注:当時の「こどものとも」編集長)もよく言ってたけど、『話は幹で書け、枝葉で書くな』と。『ぞうくんのさんぽ』は幹だけだったのかもしれない。

今の本は、なんでもあり、でしょう。展開が、ひとつ嘘ついて、ふたつ嘘ついて、みーんな嘘で、『おもしろいでしょ?』って言われたって、『そんなもの、おもしろくないよ』って、言えなくちゃならない。『1+1』みたいに否定できない論理は共有財産ですよね。否定できてしまう論理は、一部の人だけのもの、超能力や超常現象の話になってしまうと思うんだけど。『1+1』になっていない。


僕らは絵本でも、そういう共有財産を作ろうとしている。どこの国の子が見たって、『おもしろいな』というものを作ろうと。なかなか作れないけれど(笑)」

*次回は「めっきらもっきら どおんどんが生まれた日/長谷川摂子さんインタビュー」。
 10月10日頃公開予定です。どうぞお楽しみに。

こどものとも800号記念・絵本誕生のひみつ
第7回「しょうぼうじどうしゃ じぷたが生まれた日②/山本忠敬さんインタビュー」はこちらからどうぞ!
第6回「しょうぼうじどうしゃ じぷたが生まれた日①/渡辺茂男さんインタビュー」はこちらからどうぞ!
第5回「かばくんが生まれた日/岸田衿子さんインタビュー」はこちらからどうぞ!
第4回「いそがしいよるが生まれた日/さとうわきこさんインタビュー」はこちらからどうぞ!
第3回「だるまちゃんとてんぐちゃんが生まれた日/加古里子さんインタビュー」はこちらからどうぞ!
第2回「ぐりとぐらが生まれた日②/山脇百合子さんインタビュー」はこちらからどうぞ!
第1回「ぐりとぐらが生まれた日①/中川李枝子さんインタビュー」はこちらからどうぞ!

2022.09.12

  • Twitter
  • Facebook
  • Line

記事の中で紹介した本

関連記事