作者のことば

作者のことば 長谷川摂子さん『めっきら もっきら どおんどん』

遊ぼうね、みんな! 

長谷川摂子

「おたからまんちん」だとか「しっかかもっかか」だとか、何と響きの面白い愉快な名前でしょう。「もんもんびゃっこ」は絵を描いてくださったふりやさんの見事な造形にひかれて、わたしが作った名前ですが、あとの二人のおばけの名は、実は、わたしの創作ではなく、幼児をあやす無意味な言葉として昔から伝えられているものなのです。一昔前、爺様や婆様がひょうきんな顔でこんな言葉を口にして、幼い子を笑わせていたのかと思うと、わたしもひとつやってみたくなりました。そんな気持ちがこの絵本に結びつき、古来のあやし言葉は子どもの心をもった遊び好きのおばけたちの名前にめでたくおさまった次第です。


一方、自分でも、つい子どもが笑ってしまうような、意味はないけれど心が弾むうたを作ってみたくなり、“めっきらもっきら どおんどん”のうたが出来上りました。このうたと、名前だけ先にきまった愉快なおばけのトリオを軸にこの物語が浮かび上がってきたわけです。“めっきらもっきら どおんどん”は、自前の節をつけてさんざん子どもにうたってやり、一時わが家の息子は「かんた」顔負けの大声で、このうたをうたいまくっていました。ここに紹介したのが自前の節です。もちろん読者の方も勝手な節で自由にうたってください。いろいろな“めっきらもっきら どおんどん”が生まれ、たくさんの子どもたちが元気な声でうたってくれることを願っています。

いつでも、とんだりはねたりしている子どもたち、手にしっかり握れる小さな宝物に心を熱くしている子どもたち、大声でわめきちらす子どもたち、何か怖いことないかな、と胸をどきどきさせている子どもたち、友だちが好きで好きで仕方がないくせに時々母さんが恋しくなる子どもたち、そんな子どもたちと、この絵本でわたしは思いきり遊びました。さあ、今度は子どもたちがこの絵本で遊んでくれる番です。遊ぼうね、みんな、みんな!

(「こどものとも」1985年8月号 折り込みふろくより)

長谷川摂子(1944~2011)

島根県生まれ。東京大学大学院哲学科を中退後、公立保育園で保育士として6年間勤務した。その後、「赤門こども文庫」「おはなしくらぶ」主宰。絵本に『めっきらもっきら どおんどん』『きょだいな きょだいな』『おっきょちゃんとかっぱ』『はちかづきひめ』『みず』『さくら』『きつねにょうぼう』『かさ さしてあげるね』『おじょらぽん』、童話に『人形の旅立ち』、著書に『子どもたちと絵本』『絵本が目をさますとき』(以上、福音館書店)などがある。

2022.05.16

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