ぐりとぐらが生まれた日②/山脇百合子さんインタビュー
月刊絵本「こどものとも」は、2022年11月号で800号を迎えます。これを記念して、今年度、本誌の折り込み付録では、過去の記事から、数々のロングセラー絵本の「誕生のひみつ」について、作者の方たちが語ったインタビュー記事を再録してお届けしています。
ふくふく本棚でも、毎月、「こどものとも800号記念・絵本誕生のひみつ」と題して、折り込み付録掲載のインタビュー記事を公開してまいります。第2回は、「ぐりとぐらが生まれた日②」。山脇百合子さんのインタビューを「こどものとも年中向き」2000年4月号折り込み付録から再録してお届けいたします。
「絵を描く人になろう、なんて気が、全然なかったんですよ」
――という山脇さんは、中川さんの妹さんです。
「姉が『いやいやえん』を書いた時に、『妹は、いつもそこらにいて絵を描いているから』というので、さし絵を描いたのが始まり。『ぐりとぐら』の時には、のねずみを描いたことがなくて困って、上野の科学博物館の、今泉吉典先生の研究室に行きました。藪内正幸さんが連れて行って下さったんです。そこで先生が、どれでもおすきなのをどうぞって、ねずみの標本を全部見せて下さって。その中に、ああいうかわいいのがいたのね。大学四年の夏休みに描いていたんです。
姉のお話は、絵にしやすいことが多いんです。でも『ぐりとぐら』は、始まりが『もりの おくへ でかけました』でしょう。向こうへ行くのだから、後ろ向きなんです。ただでさえ描いたことがないねずみを、二本足で立たせて向こう向きなんだから、難しかったのね。卵を運べないところでも、こういうふうにする、というのは文章にないから、自分で四苦八苦して、『どうやったら運べないか』(笑)を考えたの」
――ぐりとぐらは、青と赤で色わけされていますね。
「わかりやすいものねえ。区別はそれだけだから、ふたりは入れ替わったりしてるかもしれないわね。『今日はぐりになる』なんて(笑)」
――自分の絵が絵本になる、ということで緊張感のようなものは?
「そういうのがあまりなかったんです。松居直さん(注:当時の「こどものとも」編集長)の依頼の仕方がとてもおおらかで、どうってことないように言って下さったから、そのせいか。自分でもよくわかっていなかったためなのか。
その後も、私が奥さんになっても母親になっても、姉がお話を書いて、私に絵を描かせてくれたものだから、続いてきた。でも、毎回、これは描くけど、こういうことはもうしないんだなあ、と思いながら描いていたの。だからあまり自覚もなくて。
ちょっと目的意識を持つとか、向上心に燃えるとか、早く気付けばいいのにね(笑)」
――穏やかで、とにかく肩の力がぬけている、という印象の山脇さん。ぐりとぐらの、自然なたたずまいや動きの秘密が、少し解けたように思いました。
~こぼれ話~
1963年刊行当時、「こどものとも」編集長だった松居直は、このような言葉を残しています。
この絵本の作者中川李枝子さんと、さし絵の大村百合子さんとは姉妹です。おふたりとも、この仕事が大好きで、楽しくてしようがないようです。おねえさんの李枝子さんは保育園の保母さんですし、妹さんの百合子さんは大学生です。のびのびした、屈託のない、それでいてふたりとも違った個性のこの姉妹を見ていると、私はいくらでも絵本がつくりたくなります。
この絵本は、いろいろな意味で、日本の現在の絵本界に一石を投じると思います。何よりも子どもたちが大喜びしてくれるでしょう。(松居直「こどものとも」1963年12月号折込付録より)
2022.04.11
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