ぐりとぐらが生まれた日①/中川李枝子さんインタビュー
月刊絵本「こどものとも」は、2022年11月号で800号を迎えます。これを記念して、今年度、本誌の折り込み付録では、過去の記事から、数々のロングセラー絵本の「誕生のひみつ」について、作者の方たちが語ったインタビュー記事を再録してお届けしています。
ふくふく本棚でも、毎月、「こどものとも800号記念・絵本誕生のひみつ」と題して、折り込み付録掲載のインタビュー記事を公開してまいります。第1回は、「ぐりとぐらが生まれた日①」。中川李枝子さんのインタビューを「こどものとも年中向き」2000年4月号折り込み付録から再録してお届けいたします。
「子どもたちをびっくりさせたかったんですよ」
――『ぐりとぐら』のお話はどうやって生まれてきたのか、と中川さんに質問したところ、真っ先にそんな答えが返ってきました。中川さんが保育園で保母さん(注:現在は保育士という名称になっています)をしていた頃のことだそうです。
「園長先生と私と、子どもたちだけの園で。園長さんが、『保育はあなたに任せます。ひとりも欠席がないように、毎日子どもが喜ぶ保育をして下さい』って、私を“主任保母”にしてくれたの(笑)。
それで、いかに、子どもの頭と体と心をたっぷり使って上手に遊ばせるかって、必死だったのよ。子どもは、遊びながら育つんですからね。子どもたちはもちろん遊びの名人だけど、私は『自分たちだけで遊ぶのも楽しいでしょうけど、私が誘いこむ遊びも楽しいでしょ』って、はり合うような気持ちで、子どもたちにお話をしていたの。お話は、想像力を使う、完成された、いい形の遊びだから。
グリム童話に始まって、「母の友」のお話から、エッセイ、新聞のコラムなんかまで、これなら子どもたちにもわかって喜ぶ、というおもしろいのを探して読んだ。その中で最高に喜んだのが、『ちびくろサンボ』だったのね。あの、トラがぐるぐる回ってバタになる話。最後にホットケーキを196枚食べるところで、みんなは思わずつばを飲み込む。
そこで私は、ホットケーキの向こうを張って、カステラを作った。園の子たちには、もっともっと上等でおいしいものをごちそうしようと思って。なんせカステラは、ホットケーキよりもふんだんに、卵を使うんですから」
――それで『たまご』だったんですね。(注:『ぐりとぐら』は、「母の友」に掲載の『たまご』というお話が、基になっています)
「それも大きな卵でなくちゃいけないの。大きな卵で、子どもたちはびっくりするでしょう。で、大きな卵が登場するわけだから、その大きさを際立たせるのに、主人公は小さなのねずみにしたんです」
――やっぱりカステラを食べる場面が、とてもうれしい絵本ですよね。
「子どもは、食べることが大好きだから。私は意識していなくても、自然と食べるシーンが出てしまうんです。かわいい子たちに、うんとおいしいものを、どっさりごちそうしよう、という気になるの。出来合いでなく、ひとつひとつ心をこめて作っているんですよ。ぐりとぐらは、どちらかと言えば菜食主義なのね。だから私は、ハンバーグやソーセージは出さないの。動物たちがお互い食べ合うようだし(笑)」
――『ぐりとぐら』の文章には、とにかく無駄がないですね。
「話が、少しでもだれると、子どもはついてこない。そっぽを向いてしまう。園で一年に一度、劇をしたの。台本は、役者である子どもひとりひとりに合わせて私が書き、台詞は口うつしで覚えてもらう。その時、ドラマの筋に関係のない台詞は、なかなか覚えないということがわかった。なくてはならない台詞は、たとえ長くてもいっぺんで覚えるのです。だから、覚えないのは台詞が悪い。けずってけずってけずりました。
そういう意味で、私は、本の読み方も、お話の作り方も、子どもたちに教えられたんですよ。目の前に、生きた子どもたちがいたんです」
――絵本作家よりも、日本一の保母になりたかった、という中川さんでした。
2022.04.11
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