学校図書館だより

【対談】英語版の絵本を蔵書・活用すること

絵本は、子どもたちの心が動く「材」になる!

名渕浩司/金澤磨樹子

東京学芸大学附属小学校のメディアルーム(図書館)では、2020年11月に「英語の絵本を読んでみよう!」として、英語版と日本語版の絵本を展示しました。同校では、外国語活動や英語の授業でも、積極的に絵本をとり入れています。メディアルームの金澤磨樹子さんと英語科の名渕浩司先生にオンラインでお話をうかがいました。

―子どもたちの反応はいかがでしたか。

金澤 カウンターのすぐ横のスペースなので、子どもたちは貸出返却の際に、「英語もあるんだ!」と言いながら手に取っていました。人気のヨシタケシンスケさんの作品や、小さなころに読んでもらった絵本だから、英語版も見てみようという気持ちにつながるようです。展示の最初は、日本語版の貸出が中心でしたが、後半になると、高学年の児童が英語版を借りる姿も見られました。ただ、小学生なので、日本語と英語を読み比べてみようという発想はあまりないようです。特に幼児絵本は、小学校では蔵書していないところも多いので、日本語版がなくても、英語版のみ展示する形でも良いかもしれません。

―メディアルームの英語の蔵書は、授業で使う絵本とも連携しているのでしょうか。

金澤 英語専科や講師の先生が来られてからは、いろいろと相談しながら増えてきて、現在の蔵書は150冊前後です。洋書、和書を問わず、絵本や辞典なども含めて分類83で配架しています。そのうちよく授業で使うものは専科教室に別置しています。

―絵本を使った外国語活動の授業も拝見しましたが、子どもたちが、英語のリズムにのって、体を動かしながら口ずさんでいましたね。

名渕 英語の魅力は、何といっても、真似したくなるような、英語独特のリズムがあることです。「プロソディ(韻律)」といって、話しことばには、場面や文脈によって、その言語特有の音の流れがあり、すぐれた英語絵本には自然な、英語らしいプロソディがすべて詰まっているのです。とくに、テンポよく定型の表現がくりかえされる絵本は、聞いているうちに、だんだんと理解が深まってゆきます。そして、絵本の世界から英語の意味を感じ取り、「言ってみたい!」と思いが声に出てきます。子どもたちの「耳も体もぐっと前に出てくる」意欲がうまれる瞬間を、授業ではとても大切にしています。
 また英語絵本に限らず、日本語の絵本を使うこともあります。例えば、Where?を学ぶ授業では、安野光雅さんの『もりのえほん』を使って、子どもたちが本当に「どこ?」と探す場面を作ります。また『やさいのおなか』でも、“What vegetable is this?”(この野菜は何?)と投げかけることによって、What?という気持ちが自然にうまれるのです。イラストやカードのような教材とは異なり、絵そのものにストーリーがあるので、子どもたちの知りたい気持ちや共感があふれてきます。



―英語、日本語に限らず、絵本の中にはコミュニケーションをうみ出す力があるからこそ、必然的にことばを習得していくのですね。

名渕 絵本には、子どもたちが「わかるな~」と共感できる会話や場面がたくさんありますから、すばらしい「材」です。教える目的として作られた教材でなく、私はあえて「材」とよんでいます。日本で生活する子どもたちの身の回りには、英語の絵文字はあふれていますが、残念ながらリアルな英語のコミュニケーションはほとんどありません。それゆえ授業では、絵本のように、子どもたちのリアルに近い「材」が必要だと思っています。現実の事象や文化にふれ、子ども自身が問いや感想を持つことで、心が動かされ、学びが始まっていくものだと思います。

金澤 私自身は英語の読み聞かせには挑戦していないのですが、他の学校では、先生と連携して、図書館で英語と日本語で読み聞かせをしている事例もあるようです。ただ、英語の発音が難しいので、音源が欲しいという声も聞かれますが…。

名渕 私は、録音されたネイティブの英語だけに頼らなくてもよいと思います。発音が少々たどたどしくても、大人が一生懸命、英語で伝えようとする姿を見て、子どもも自然と英語で言ってみようとし始めるのではないでしょうか。そんな場面こそが、自分から話してみたい、伝えたいという意欲を軸とした活動になるだろうと思います。そのためにも、学校で活用する英語の絵本は、表現がシンプルで、教師にとってもわかりやすいことがポイントです。
 読み聞かせでは、絵の助けを借りながら、「なんとなくストーリーがわかった」とか、「聞いたことがある単語をキャッチできた」など、子どもたち一人ひとりの発見があると思います。図書館でも、決して自分ひとりで読めるようになることがゴールではありません。ページをめくって、ワンフレーズでも「言えるよ!」、「知ってるよ!」という気持ちがうまれて、「英語って楽しい!」と思えたら、それが子どもにとって大きな成功体験になるのではないでしょうか。

名渕浩司(なぶち こうじ)
東京学芸大学附属世田谷小学校教諭
金澤磨樹子(かなざわ まきこ)
東京学芸大学附属世田谷小学校司書

聞き手・長嶺今日子(世田谷区学校司書)

2021.01.10

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