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ゾウたちのコミュニケーション方法に驚き!『ゾウと ともだちになった きっちゃん』

『ゾウと ともだちになった きっちゃん』

動物が好きな人だったら一度は「ドリトル先生のように動物と話しができたら……」と思ったことがあるのではないでしょうか。身近な動物はずっと見ていると、考えていることが通じるような気がしますが、動物園の動物たちは見るだけという人も多いと思います。でも実は、動物園の動物たちの生態をじっくり観察して、知ることができれば、彼らともコミュニケーションを取って仲良くなる可能性があるのだそう。

絵本『ゾウと ともだちになった きっちゃん』に登場するゾウに魅せられた女の子「きっちゃん」は動物園に通って、ついにはゾウと心が通じ合いました。どうしたらゾウと仲良くなれるのでしょうか……。 

お父さんと二人で動物園を訪れたきっちゃんはゾウに心を奪われます。大きな身体、ほうきみたいなしっぽ、ざぶとんみたいな耳、いくら見ていても飽きません。 大きな声でゾウに声をかけても、ゾウたちは知らん顔。きっちゃんは少しがっかりしてしまいますが、別れ際に「またくるよ」と手をふって別れます。

次のお休みに動物園に来たきっちゃんは一目散にゾウのもとへ! 展示場の看板から、ゾウには「スアイ」と「チャンポム」という名前があることを知り、ゾウの顔の違いも分かるようになってきました。ずっと観察していると、自分よりずっと小さいハトを怖がるチャンポムを、スアイがなだめている姿を見ることができました。また、お世話のために出てきた飼育係のお兄さんが「スアイ、鼻をあげて」と言うと、スアイはくるりと鼻を丸めているのも目撃しました。きっちゃんはゾウが、コミュニケーションをとっているところを目の当たりにして、ますますゾウに興味を持ちます。帰り際、きっちゃんが「またくるよ。何回も来るからね!」と声をかけると、ゾウたちはぴたりと動きを止めて、こちらをちらりと見たようです。

それから、日曜日のたびにきっちゃんはチャンポムとスアイに会うために動物園に通って、スケッチをしたり語りかけたりして過ごします。そのかいもあって、チャンポムはきっちゃんが名前を呼ぶと、耳をパタパタしたり、目だけを動かしてきっちゃんを見たり、鼻をこちらに向けたり……関心をもってくれるようになりました。

ある日、飼育係のお兄さんがチャンポムに声をかけているのを見たきっちゃん。「お兄さん、チャンポムはお返事をしてくれた?」とたずねます。すると、ゾウの声はすごく低いから人間には聞こえないけど、ちゃんとお話をしているのだということを知ります。ゾウは声を出す時におでこのあたりが少しふるえるので、おでこを見ているとおしゃべりしていることが分かるのだそうです。

寒くなってきたある日、とチャンポムが外に出てこなくなりました。何週間もチャンポムに会えなくなって「寒くないかな」「元気にしてるかな」と、ゾウたちのことをいつも気にしているきっちゃん。そんなきっちゃんに新聞を読んでいたお父さんが、素敵な知らせを教えてくれました。春がやってきて、ゾウの元にかけつけたきっちゃんが見たものは何だったのでしょうか。チャンポムはきっちゃんを覚えていたのでしょうか……

作者の入江尚子さんはゾウの知能の研究をしていたころに何十頭ものゾウと出会い、そのご経験を元にお話を創作されました。たとえば、絵本に記載があるゾウたちによる、人間の耳では聴こえない ”秘密のおしゃべり” 。入江さんがゾウの声を観測できる機械を使ってそのコミュニケーションを観察した際には、のんびり草を食んでいるように見えたゾウたちが、なんと、ぺちゃくちゃおしゃべりしているのを知ってびっくりされたとか。そんなゾウたちへの思いあふれるエッセイを絵本の巻末でご覧いただけます。

絵を手がけたのは 北海道の旭山動物園に飼育係として20余年勤務したご経験のある絵本作家・あべ弘士さん。動物を知りつくすあべさんだからこそ描けるゾウの顔の違いや、何かを語りかけるような目の表情などに引きこまれてしまうことでしょう。
 
入江さんによると、飼育員や研究員じゃなくても、動物園のお客さんと仲良くなるゾウは本当にいるのだそうです。きっちゃんのように動物を観察して、彼らの気持ちを思いやることがまずはその第一歩なのかもしれません。動物園で大好きな動物とそんな素敵な関係が築けたら素敵ですよね。絵本を読んだら動物園に足を運んで、親子でじっくりお気に入りの動物を観察してみてくださいね。

担当・H
きっちゃんのように動物たちと仲良くなりたいと心から思います。私でしたらアザラシとぜひコミュニケーションをとってみたいです。アザラシといえば、あべ弘士さんのこちらの絵本もおすすめです。『雪の上のなぞのあしあと』

2020.09.10

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