【第8回】いまきみちさん・西村繁男さん|(1)合作のおもしろさ
1986年4月から3年にわたって「こどものとも折り込み付録」にて連載された、故・長谷川摂子さんと14名の絵本作家の対話の記録を、再録してお届けします。第8回は、それぞれ絵本作家としてご活躍している、いまきみちさんと西村繁男さんです。
『おとうさんといっしょに』
長谷川 「こどものとも」11月号(「おとうさんといっしょに」)の絵は、いまきさん、西村さんご夫婦の合作ですが、西村さんの丹念な背景で味が出ているところに、いまきさんの描かれた、お父さんと子どもがまたシンプルで、おおらかですね。人物が立体写真みたいに浮き出ていて、一種面白い味を出してますね。
西村 背景はちょっと沈むように、落として色をぬったから。
いまき 両方とも絵をかいてて、お互いライバルどうしっていう感じがあったから、白石さんがさせてくれなかったら、なんでふたりで絵本作る必要があるのなんて思って、やらなかったかもしれない。
西村 そうだね。この人は昔から人物はこういう目がまん丸な絵で、絵柄も小さい子向きでしょう。ぼくはもっとごちゃごちゃかいて、もう少し年令も上向きの方だと思っているし、違うところでやりたいと思ってたんだけど、この白石さんとの出会いでね。
長谷川 白石さんは、お友だちですか。
いまき そういうわけじゃなくて、私が他のお母さんたちと、近所の古い家の車庫を借りて文庫をやっていた時、そこに、白石さんの友だちで、やはり文庫をしていた人が、一度こちらの文庫を見に来て、その時に白石さんの原稿を持ってきたんです。私もその前に、白石さんの講演を聞いたことがあったんですけど。
西村 ふたりとも白石さんの原稿を読んだとたん、パッと絵本になると思ったんですよね。それで、どうしようかっていろいろ話して、この人だけでやるか、ぼくだけでやるか、それとも一緒にやるかということも迷ったんだけど、ぼくが人物までかいちゃうと、リアリズムになってしまうでしょう。その辺、この人の絵だと割合スカッとできるし、家から保育園まで行く話だから、背景は丹念にかいた方が面白いだろうということで、じゃ、一緒にやろうかと。
長谷川 子どもの感情移入するレベルが、こんなふうに2段階になってる絵って、面白いですね。
西村 アニメーションなら、背景と人物とをかき分けていくというのがあるんだけどもね。
いまき 子どもはアニメーションで慣れてるから、こういうものも好きだと思うんですよね。
長谷川 なるほどねえ。いまきさんがかかれたお父さんと子どもの、どこか現実離れした明るさ、子どもは安心して受けいれそうな気がしますね。そして、リアルな生活を感じさせる西村さんの絵が、この親子をちゃんと現実の中に置いている。うまくいってますね。ふたりでかいていく時には、スムーズにうまくいきましたか。
西村 それはやっぱり、いろいろ言い合うよね。(笑)
いまき 線がきの段階でも結構、やっぱり……。でも、1階と2階に、それぞれの仕事場があるから、ちょっとここ直してなんてことも、できたしね。いちいち外で会わなきゃならない人とだったら、めんどうくさいし……。
長谷川 先に、どちらがかかれたんですか。
西村 文章を元にして、この人が最初大まかなラフを作って、それをぼくがもう少し細かいラフにした。
いまき 陸橋とか車いすとか取材に行って、写真をとってきて、ラフを作って……。
西村 それから、編集の人に見せた。
長谷川 犬とか鳩とかも、いまきさんがかかれたんですね。その辺が子ども心をつかんでてにくい。
西村 車いすや、人の乗っている自転車とかのぞいて、線が入っているのがぼく。色は、ぼくが最初に背景をぬって、この人があとで人物とかぬったから、人物をはっきりさせるためにバックを落としてくれって言われたり。(笑)普通ひとりでかく時は、人物にぬった色と対比させて、バックが自然にできていくんだけどね。
いまき 最後は、それぞれが手直ししたわね。
西村 この人は割と大まかだから、車いすの形が1回ずつ違っていたりとか、ぼくはすごく気になるからね。(笑)
長谷川 いまきさん、にらんでますよ。
西村 服の色だって、全然違ってたりするからね。それで、何度も文句言って、やっとかき直してもらったりね。
いまき 私はあんまり気にならないのね。(笑)
長谷川 おふたりの画風はだいぶ違いますが、お互いに影響し合うとか、そういうことは?
西村 中にはあるだろうけれど、似たくないとか、違うことをやりたいとか思ってるから。
いまき 私が最初『あそぼうよ』の本をやった時には、こういう絵しかかけなかったのね。それから子どもを産んで、生活がすごいリアリズムの世界に入っちゃって、絵も一時期、リアリズムになったんだけど、またやっと、こういう絵がかけるようになった。
西村 そうだね。あのころはすごく迷ってたよね。
いまき そういうリアリズムの絵は、なんか自分の絵じゃないような気がして……。
西村 この人はもともと器用っていうんじゃないから。ぼくは最初見た時、絵を追究していって、複雑から単純へいったんだろうと思って、ああすごいなと思ったわけ。ぼくなんか省略したいのになかなかできないで、どんどんかきこんでる段階なんだけど、この人は最初から、もう余分なものを省いたところから出発している。
長谷川 日常をスパッと切ってしまって、ここで遊んじゃうっていう思い切りのよさみたいなのが面白いですね。年少版1月号の『なぞなぞなーに なぞなーに』は、まさに決っていますね。特に、青空にこたつが浮いている“ゆめ”のページ、いいですね。子どもの心を輪切りにしてのぞいてみると、こんな絵になってるんじゃないかという気がしますね。こだわりぬきに、シュールなところで遊んでいて。
いまきさんは東京生まれですか
いまき 神戸で生まれて、神奈川の日吉で育って、あとは東京の洗足池。
長谷川 絵をかくのは、ずっとお好きだったんですか。
いまき 母親が友だちと日曜毎に集って絵をかいて、その後でみんなでご飯を食べたりしてたから、その中でなんとなく私も絵がかけるような気になっちゃったんじゃないかな。
長谷川 面白いですね。絵画パーティーみたいなもの?
いまき パーティーなんてもんじゃないけど……。母親たち3人位で、子どもたちが2、3人ずつ集って、なんとなく。それは、私が文庫をやりたいと思うのと、つながってると思うのね、あとから考えてみると。
西村 昔だったから面白いよね。今みたいに、カルチャーセンターの時代じゃないから。
長谷川 ほんとに、お母様の世代から考えると、ずいぶん解放的な感じで楽しそう。
いまき そうですか。母親も自分で絵が好きで、かいてた。
西村 お母さんのかいた絵、残ってるよね。君が絵をやりたいと思ったのは、お母さんが亡くなって、女の人も仕事を持たないとだめだと思ったから。
いまき デザイン科へ行ったと。(笑)
長谷川 リアリズムですね。(笑)
2017.04.08